2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
01J02755
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 文則 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ローマ帝国 / 三世紀の危機 / 軍人皇帝時代 / 西洋古代史 |
Research Abstract |
本年度は、3世紀半ばのローマ帝国を統治した皇帝ガリエヌスの「騎兵軍改革」についての研究を行った。軍人皇帝時代(235-284年)のローマ帝国史は、ゾシモスやゾナラスといったローマ時代より遥か後世のビザンツ時代の史料に大きな信頼をおいて復元されてきているが、これらの史料には、ガリエヌスの治世(253-268年)にはいると、ιππαρχοやιππαρχωνといった騎兵と関わりのある官職の名がしばしばみられるようになる。近代の研究者は、主としてこれらギリシア語史料の記述を基に「ガリエヌス帝の騎兵軍改革」なる仮説を立てた。ガリエヌスは、皇帝直属の中央騎兵軍を創り出し、打ち続く蛮族の侵入や簒奪帝に迅速に対応し、軍事的危機克服の重要な一歩を踏み出したと論じたのである。この仮説は、アルフェルディA.Alfoldiによってひときわ強く主張され、長らく通説として受け入れられてきたが、近年、中央騎兵軍の存在を否定するジーモンH.G.Simon等による痛烈な批判にさらされており、大きく揺らいでいる。学説史を追っていくと、その論争の焦点が、「騎兵軍改革」を論ずる際のキーパーソンであるアウレオルスをめぐるギリシア語史料とラテン語史料の解釈の違いにあることが分かる。本年度の研究では、この点を追求することを手がかりに、騎兵軍改革の実態を考察し、そこから進んで3世紀後半におけるローマ帝国軍制の状況の一端を明らかにした。結論としては、中央騎兵軍そのものよりも、それを構成していたとされる個々の騎兵部隊の重要性を指摘し、さらに、これらの騎兵部隊創設が3世紀の軍制全般の変化と密接に関連していたことを解明した。 なお、属州ダキア(現ルーマニア)が3世紀末に放棄された事情の究明や4世紀に,ラテン語で著された当該時代の史料である『ヒストリア・アウグスタ』の翻訳も同時並行で研究をしており、成果を公表する予定である。
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