2002 Fiscal Year Annual Research Report
近世中国の家族・親族・女性論についての思想史的研究
Project/Area Number |
01J02765
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐々木 愛 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 朱子学 / 『朱子家礼』 / 家族 / 宗族 |
Research Abstract |
本年度は、8月に南開大学中国社会史研究中心(於中華人民共和国天津市)で行われた「中国家庭史国際学術研討会」に参加、「『朱子家礼』中の家族・親族の構造とその大きさについて」と題した研究発表を行い、かつ会議論文集に論文を掲載した。当学会は、8つの国と地域から、七十余名の一線の中国史研究者が集ったもので、多くの研究者と面識を得、大きな知的刺激を得ることができた。 学会で取り上げて論じたのは、朱子が編纂したとされ、以後正統の地位を保ち続けた冠婚葬祭の儀礼マニュアル、『朱子家礼』である。『朱子家礼』は宗法という親族法を根幹原理としており、従来の研究では、『朱子家礼』における宗法の導入は、親族の結合を目指したものと理解されてきた。しかし、今回あらためで『朱子家礼』を読み直してみたところ、宗法の名のもとに機能しているのは、嫡庶の別と祭祀権の嫡長子-子継承の系譜の確立であった。これは、親族内部を嫡系と庶系とに差別化し、尊卑として秩序付けることを志向するものであり、親族の結合ではない。『朱子家礼』における宗法に基づいて形成される儀礼単位とは、概ね兄弟とその妻子という比較的小さな規模のものに止まる。そしてもし累世同居している大家族であっても、『朱子家礼』の規定に則れば、たとえ同居している家族であったとしても、家族全体ですべての祖先の祭祀を行うことはできず、嫡庶の系統別に祭祀を別別に行わなければならない。ここにおいて宗法は親族の結合はおろか同居家族の分裂さえ促す要素となっている。また『朱子家礼』中には、親族の結合には格好の装置である始祖祭祀の規定はあるが、しかし『朱子家礼』の始祖祭祀には、親族の結合を促すような規定はなく、またその祭祀法も親族の一体感を生むようなものではない。以上のことから、『朱子家礼』で宗法が導入されているのは、親族の結合を目的としたものではなく、経書に記載のあるいにしえの理想の親族制度をこの世に復活させようという、ある種原理主義的な志向によるものであることが考えられる。
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Research Products
(1 results)