2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
01J02772
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Research Institution | Kyoto University |
Research Fellow |
藤内 哲也 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 近世 / イタリア / ヴェネツィア / 領域支配 / 領域統合 |
Research Abstract |
本年度は、まず近世初頭のヴェネツィアにおいて社会的上昇を成し遂げた書記局官僚層について、その社会的な評価の獲得と蓄積の過程、名誉や威信を表出するための手段や場などについて考察した。その結果、官僚層は外交活動などを通じて評価や威信を高め、都市の支配層である貴族と同様の生活様式や文化的な活動によって「貴族性」を誇示する一方、その社会的な位置づけにおいては、貴族との差異が明示されることとなっていた。本研究の課題である領域統合の問題を考える際には、周辺地域から中心都市へと移動してきた人々が、政治的にも経済的、社会的にもいかなる形で受容、統合されたのかという点について検討することは重要な意味を持つ。前年に検討した新貴族家系の問題と合わせて、この書記局官僚層の問題を取り上げることで、都市と地域のつながりを考えるための確たる手がかりを得ることができたといえる。なおこの成果は、論文「近世初頭におけるヴェネツィア書記局官僚層の社会的言判面」として『関西大学西洋史論叢』に発表した。 一方、領域支配を進めるヴェネツイアの権力構造、とりわけ寡頭政のあり方についても検討を進めた。その結果、ヴェネツィアの寡頭政的な構造は、制度に則った形で進められ、反対勢力や下層貴族にも高位官職への一定の余地を残しつつ、投票を通じてそれらの選出を実質的に阻むという柔軟性を備えていたことが明らかとなった。「柔らかな寡頭政」ともいうべきこうした権力構造のあり方は、君主制化が進んだ他のイタリア諸国と比較した場合、近世ヴェネツィアの根本的な特質として理解される重要な知見である。この成果は、2002年11月10日に広島大学で行われた広島史学研究会大会西洋史部会において口頭発表し、現在論文を作成中である。 さらに本補助金を利用して、引き続き史料や参考文献の収集も進めた。
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Research Products
(1 results)