2002 Fiscal Year Annual Research Report
ハイデガーの根本思想における空間問題の意義について
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01J03050
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鞍田 崇 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ハイデガー / 空間 / 道具 / 工芸 / 物 / 柳宗悦 |
Research Abstract |
ハイデガーにおける空間問題は、たんに時間との対比において論じられるものではない。ハイデガー自身の意図に即すならば、ハイデガー思想においてそもそも問題となっているのは、存在のそのつどの歴史的多様性を集約し、存在が多様な仕方で生起することを可能にするような先行的開示態であり、そのかぎりにおいて空間と時間という分裂に先立つ事態である。本年は、空間問題をふまえつつ、こうしたハイデガー思想の根本動向の内実の解明を試みた。ハイデガー思想において空間問題が具体的に論究されるのは、世界内存在との連関、とりわけ日常生活における道具との関わりについてである。いうまでもなく、世界内存在における道具との関わりについての議論は、フッサール現象学をふまえつつも、さらにその理念的性格を克服し、事実的世界の解明へと踏み出したハイデガー思想の歴史的意義を示すものである。しかしながら、そこでの議論で示された知見は非本来的存在様式を特徴づけるものとされ、充分に究明し尽されているとは言い難い。このことは何よりも道具についての議論に顕著である。確かに後期ハイデガー思想においては、空間と時間双方の根源、即ち根本存在の開示の場として、「物」が主題化されるものの、かえってそれは前期の道具論に見られた現象学的な具体性に欠けるものとなっている。これはつまるところハイデガー思想において、道具及びそれと関わる人間の在り方が正当に論じられていないことを示すものと思われる(さらにその背景には、そもそも空間問題が正しく把握されていないことがある)。そしてその限りにおいて、根本存在をめぐる彼の議論も実質的内実が希薄になっていると言わざるをえない。それに対し本年度の研究においては、単なる日常性に埋没せぬものとしての道具との本質的関わりを究明し、根本存在の開かれる場としての道具について考察した。そのことにあたっては、我が国の工芸文化についての諸論考、とりわけ柳宗悦の議論を参照し得るところが大きかった。これについては、さらに研究を継続し、近く公表する予定である。
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Research Products
(2 results)