2002 Fiscal Year Annual Research Report
長鎖アルカンの空準位電子構造への自由電子性の寄与に関する逆光電子分光研究
Project/Area Number |
01J03111
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
堤 清彦 京都大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 長鎖アルカン / ポリエチレン / 空準位電子構造 / 逆光電子分光法 / 電子線損傷 / 角度分解紫外光電子分光法 / 密度汎関数法 |
Research Abstract |
長鎖アルカンは、炭素原子の擬一次元化合物、ポリエチレンなど高分子のモデル物質、代表的な有機絶縁体などの観点から、理論・実験の両面でその電子構造の研究が行われてきた。特に空準位に関しては自由電子性の寄与が示唆されており、それを明らかにすることは有機分子集合体の物性の基本的な理解のためにも重要である。しかし、空状態の電子構造観測にとって有効な逆光電子分光法を用いた研究は、長鎖アルカンが電子照射に弱いために信頼できる結果がなく、充分なデータが得られていなかった。本研究では、照射電子量を検出限界に達するまで減らして測定を試みた結果、信頼できる逆光電子スペクトルを得ることができた。 しかし、このスペクトルは試料損傷などの影響がない情報を目指して得たものであり、試料薄膜中の分子配向やスペクトルから決まる物理量のエネルギー絶対値の決定などについてはさらに入念な実験が必要である。特に、ポリエチレンは負の電子親和力をもつ物質であると報告されているが、得られた逆光電子スペクトルからは真空準位より低エネルギーに空準位が存在する可能性が示唆されている。そこで、分子配向や真空準位の位置を調べるために、角度分解紫外光電子分光法による測定を行った。また、これまでに報告されている量子化学計算結果には自由電子性を考慮したものがなかったので、基底関数を大きくとることにより近似的に自由電子性を取り入れた計算を試みた。 密度汎関数法(B3LYP)による計算結果では、充分大きな基底関数を用いると分子のLUMOが真空準位よりも低エネルギーに位置する。この結果から求めた状態密度は、逆光電子スペクトルと対応している。また、依然として基底依存性がみられるため、自由電子性を取り入れるためにはさらに大きな基底関数を用いる必要があることもわかった。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] 堤清彦: "Unoccupied electronic states in a hexatriacontane thin film studied by inverse photoemission spectroscopy"Chemical Physics Letters. 361. 367-373 (2002)
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[Publications] 佐藤直樹: "Unoccupied electronic states in Phthalocyanine thin films studied by inverse photoemission spectroscopy"Synthetic Metals. 133-134. 673-674 (2003)