Research Abstract |
本年度は,主に,プラトン『メノン』における知識概念について考察をすすめ,とりわけ,いわゆる想起説とソクラテスのエレンコス(吟味・論駁)との関係について口頭発表を行った(10月,関西哲学会,於:関西大学)。 近年のプラトン研究では,一潮流として,プラトン作品に思想内容の発展を認める論点が強調され,初期対話篇と中期対話篇にもそのような変容を認める傾向が顕著である。その研究動向にちょうど対応して,プラトンの想起説をめぐる論考においては,エレンコスの役割と想起の役割の乖離・分断を示す議論が続いている(G.Vlastos, A.Nehamas, H.Benson etc.)。 これに対し,本年度行った発表では,エレンコスが想起説のもとでこそ成立すること,すなわち両者の探求手続き上の一体性を,主に『メノン』に基づき詳論した。テクストの検討を通じて得られた結論は以下のようである。-想起説とは,(1)論理的には整合/不整合の剔出にとどまるとも言えるソクラテスのエレンコスが,いかにして,真/偽の確立へと結びつくのか,また(2)あらゆる事例ないし性状の原因・根拠として要請される「何であるか」の知の探求が,いかにして可能なのか,といった問題へのプラトン側の応答として機能するものであり,それはむしろ,初期対話篇以来の探求手続きを支える想定の提示である。 なお,この発表に基づいて執筆された論文は,次年度刊行の関西哲学会年報「アルケー』11号に掲載が決定されており,その成果を,現在は,中,後期対話篇を視野に入れたプラトンにおける知識概念の検討に結びつけ,その解明作業を続けている。 また,当該研究の遂行にあたり,12月から3月まで,英国ケムブリッジ大学古典学部において,資料収集および各研究会での意見交換を行った(4月以降も引き続き,同学部において研究予定)。
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