2002 Fiscal Year Annual Research Report
ケアにおけるニーズの相互的判断に基づく親密圏と公共圏の連結
Project/Area Number |
01J04571
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三井 さよ 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 日本学術振興会特別研究員(PD)
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Keywords | ケア / 医療 / 専門職 / 看護 / 多様性 |
Research Abstract |
ケアは他者の「生」を支えようとする働きかけであるが、他者の「生」の多様性を思えば、ケアを真の意味で追及しようとすればするほど、それを支えるための働きかけであるケアも多様なものでなくてはならないことになる。そうした本来は多様で不確実な性格を有するケアが、どこまでどのように安定的で持続可能なものとして制度化されうるかを問うのが本研究の試みである。臨床現場にいる医療専門職、特に看護職のように患者と直接接する現場は、ケアの多様性と制度化による一律化とが交差し連結される場でもあり、本研究に重要な知見を与えてくれる。その一つとして末期患者へのケアが挙げられる。末期患者は自らの死を前にして様々な葛藤や苦しみを抱えるが、それらはまず看護職を始めとした医療専門職が常に把握し対処可能なこととは限らない。たとえば「俺死ぬのかな」と尋ねる患者に対して万能の解答はあり得ない。こうした多様な患者の苦しみ、それゆえ対処不可能な問いに直面させられる看護職はときに、患者とのかかわりに苦痛を覚え、かかわりを断とうとする。だが、それでも患者とのかかわりを断たないことがケアの上で重要であり、そしてそれを可能にするのが、看護職には患者の抱える様々な葛藤の全てに応える必要はないと認識することである。この一見多様性を無視したような認識が、実は患者とのかかわりを保ち、患者に対する多様な働きかけの可能性を残すことへとつながっている。さらに、患者からの訴えに実際に応える際には、特にそれが疾患への治療・処置とは直接関係がないものである場合、それらはニーズでもありつつニーズではないものとして位置づけられることによって応えることが可能になっている。医療専門職が応える義務を有するものでありつつそうではないものとして、一律化可能なものでありつつ多様でもありうるものとして位置づけることで、実際に応えることが可能になっているのである。実際のケアはこのような様々な制度化と多様化との戦略の中で実現される可能性が高められている。
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Research Products
(1 results)