2003 Fiscal Year Annual Research Report
ケアにおけるニーズの相互的判断に基づく親密圏と公共圏の連結
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01J04571
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三井 さよ 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ケア / 専門職 / 「生」の固有性 / ニーズ |
Research Abstract |
本年度は、ケアに関する哲学的考察を探求した上で、それとの差異化を図りつつ、ケアの社会学の構想を打ち立てた。ケアを他者の「生」を支えようとする働きかけと捉え、そこにおいて今日問われている重要な課題を、「生」の固有性と専門職という観点から捉え返した。人々の「生」はその人のそれまでの生き方、生活のあり方、他者との関係性のあり方などが渾然一体となって構成される、その人固有のものである。このような「生」の固有性と働きかけの持続性という二つの要請に対して、一定程度応えてきた制度が、専門職制度である。個別対応をする主体を制度的に再生産することによって、専門職制度はケアの持続に貢献してきた。だが、専門職は専門職として社会化される過程で、対象者に対して自らが何をすべきで何が出来るかについて、固定されたイメージを形成している。このイメージはときに対象者の「生」の固有性を見失わせる。今日問われている重要な課題とは、専門職がこのような固定されたイメージを乗り越え、対象者の「生」の固有性に開かれることである。 本研究はその課題に応える方途を、看護職が患者に働きかける過程と、それを支える医療専門職間関係から探求した。まず、看護職が患者に働きかける過程を検討することで、戦略的限定化という概念を抽出した。これは患者との間にすれ違いが生じ、看護職が問題的状況に直面した際に、それでも患者の「生」を探り支えようとするために必要となる行為である。問題的状況に直面した看護職は、自らに出来ることや自らのなすべきことを、自ら限定化する。それによって限定された範囲内においては可能なかぎりのあらゆることをする。本研究はこれを戦略的限定化と呼んだが、これはあくまでも当の看護職が自らを問い直すことでなされる主体的な行為である。それゆえ、既存の固定されたイメージを乗り越える可能性が生まれる。こうした戦略的行為の存在と意義を認め、それを支える試みをなしていくことが必要である。 さらに、それを支える医療専門職間関係については、相補的自律性という概念を抽出した。相補的自律性は、最終的に決定するのは医師であったとしても、その決定過程に他の医療専門職が積極的に関わり、また医師もそれを認めることによって、各医療専門職がそれぞれのニーズ規定を活かすという関係性である。こうした関係性があってこそ、それぞれの医療専門職が患者の「生」の固有性に開かれることが可能になる。 本研究はこのように、ケアを専門職に関わる側面から捉え返し、今後の医療においてケアを実現していく方途を探った。その成果の一部は、東京大学大学院人文社会系研究科博士論文として審査を通過した。今後は医療にとどまらず、広くケアにおける問題と可能性を探求していきたい。
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Research Products
(1 results)