2002 Fiscal Year Annual Research Report
「近代ヘレニズム」とギリシア・アイデンティティの形成-ヴラヒの観点から
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01J05054
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
澤柳 奈々子 (村田 奈々子) 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 近代ヘレニズム / ギリシア・ヴラヒ / 啓蒙思想 / ナショナリズム / 第二次世界大戦 / ファシスト・イタリア / 市民権 / 国民国家 |
Research Abstract |
研究2年目の本年は、主に以下の3点について史料を収集し、分析と考察をおこなった。第一に、ヴラヒ出自の思想家ミシオダクスと彼の著作をとりあげ、ヨーロッパの啓蒙思想の影響関係を考察した。これは、昨年度から継続しておこなっている18世紀後半から19世紀を通じてのギリシアにおける思想的潮流の整理の一環に位置づけられる。この考察を通して、ミシオダクスがバルカンの知識人に普遍的な「ヘレニズム」的教養と思考様式を堅持しながらも、ヨーロッパ啓蒙思想を受け入れていく過渡期を代表する人物であることを明らかにした。また、彼は、19世紀のバルカンで興隆したナショナリズムに資した思想家とは一線を画す、最後のバルカン的知識人とでもいえる存在であることも明らかになった。 第二に、第二次大戦時のイタリア占領下のギリシアにおける、ヴラヒのイタリア軍への協力に焦点をあてた。ヴラヒ語がラテン系の言語であることを理由に、イタリアはヴラヒを利用し、また一部のヴラヒは独立国家形成を目指してイタリア軍に積極的に協力した。ヴラヒが設立した軍組織「ローマ軍団」の公式文書、および、戦後に行なわれた裁判の記録を用いて具体的にヴラヒがどのような形でイタリアに協力したのか、およびギリシア側にとどまったヴラヒとの対立を分析しつつ、この時期のヴラヒがいかにギリシアをとらえ、およびそれが彼らのアイデンティティになんらかの変化を及ぼしたのかを考察した。 第三に、法的側面に目を向け、ドイツとフランスにおける市民権と国家との関係と比較しつつ、ギリシアにおける市民権の歴史的形成過程を整理した。ここでは、ギリシアの市民権がドイツの血統主義とフランスの出生地主義の混合でありつつも、「古代ギリシア人直系の末喬」という近代ギリシア国家成立以来のイデオロギーに強く支配され、市民と国家とが有機的関係にあるとの見方が優勢であることを明らかにした。さらには、この枠組みの中で、ヴラヒも含む宗教・言語・エスニック・マイノリティがその権利を完全に保証されることは容易ではないことも導きだされた。
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Research Products
(1 results)