2003 Fiscal Year Annual Research Report
「近代ヘレニズム」とギリシア・アイデンティティの形成-ヴラヒの観点から
Project/Area Number |
01J05054
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
澤柳 奈々子 (村田 奈々子) 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 近代ヘレニズム / ギリシア・ヴラヒ / アイデンティティ / アフトフソン・ヘテロフロン / ギリシア語 / 東方正教会 / ビザンツ帝国 / 「われわれの東方」 |
Research Abstract |
研究3年目の本年は、まず、これまでの2年間で収集した史料をひきつづき検討する作業をおこなった。その一方で、19世紀半ばからバルカン戦争・第一大戦勃発までに活躍した、ヴラヒ出自のギリシア王国の政治家や、非ヴラヒ出自ではないギリシア人知識人のギリシア・アイデンティティ、および「近代ヘレニズム」に関する言説に注目し、分析した。特にとりあげたのは、イオアンニス・コレッティス、マルコス・レニエリス、そして、イオン・ドラグミスの三名である。 この分析の目的のひとつは、ヴラヒのギリシア人アイデンティ形成の過程を、ギリシア人自身が19世紀にオスマン帝国から独立して以降に体験した、ギリシア人アイデンティティの形成と比較するためである。また第二に、通時的な視野から、ギリシア人アイデンティティ形成を考察するという目的を持っている。ギリシア国民国家形成から、第一次大戦までの約80年間で、ギリシアはバルカン半島および、東地中海に領土を拡張した。それにともない、国境の内部には、ヴラヒ以外にも、非ギリシア系の住民を含むことになった。この事実は、ギリシア人アイデンティティの形成、および「近代ヘレニズム」概念に少なからぬ影響を及ぼした。加えて、この時期の東地中海、および中近東における西欧列強の利害の対立を反映した、いわゆる「東方問題」として一括できる、一連の外的要因も、ギリシア人アイデンティティ形成の方向を左右する一因となった。 これらのことを考慮しつつ、ヴラヒ、そして非ヴラヒの政治家、知識人の言説を分析から明らかになったのは、ヴラヒ、非ヴラヒのギリシア人ともに、彼らの、ギリシア人アイデンティティ、および「近代ヘレニズム」についてのとらえかたは、二通りあることが導きだされた。第一に、ギリシアの領土拡張をはじめとする国内状況の劇的な変化や、西欧列強の圧力、オスマン帝国、そしてバルカン諸国の状況の変化を敏感にとらえて、それをみずからに有利なように利用する便宜的側面である。第二は、時代状況に惑わされることのない、ギリシアの歴史と伝統に基盤をおく一貫した普遍的側面である。 以上の分析、およびこれまでの研究の過程で得られた知見をとりいれて、「近代ヘレニズム」の複合的特徴を、ヴラヒを主題とした本研究が十分にとらえられているかを確認しながら、論文を作成中である。
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Research Products
(2 results)