2002 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本における農本主義(農本思想)の歴史社会学的再構成:その現代的意義への着目
Project/Area Number |
01J05070
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
舩戸 修一 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 農本主義(農本思想) / 近代日本 / 歴史社会学 / 犬田卯 / 土の芸術 |
Research Abstract |
平成14年度の研究実績は、近代日本の農本主義(農本思想)、とりわけ「犬田卯」の農本主義(農本思想)に関する研究に集約される。 そもそも、「犬田卯」は専ら「農民文学者」として扱われてきており、これまでの農本主義(農本思想)の先行研究ではほとんどと言って良いほど諭じられてこなかった。それ故、農本主義者(農本思想家)としての犬田の歴史像は、明らかになったとは言い難い。そこで、犬田が構想した「土の芸術」諭に注目し、そこからうかがい知れる犬田の狙いについて分析した。 この「土の芸術」諭は、大正中期から隆盛しつつあった「農民文学」が都市民から記述され、実際の農村や農民を描いたものでないことに犬田が反発したことから生まれたものであった。犬田は、この「土の芸術」こそ、農民自身が農民自らを記述する文学であると措定する。これは、農民が、今現在置かれている状況-例えば、封建遺制である地主-小作関係から生じる軋轢や農村杜会に急激に浸透する資本主義から生じる貧富の差など-を記述していく文学なのである。よって、「土の芸術」論とは、農民の「自己表現の手段」として考えられていたのである。また、犬田は、このような独自の芸術論を打ち立てることにより、農民の「自己覚醒」を企図していたのである。こうして、「土の芸術」論は、当時、封建遺制と資本主義の荒波の中で翻弄される農村社会を変革し、そこに拘束された農民自身を解放していく有効な手段として構想されていたのであった。 もとより、これまでの農本主義(農本思想)の先行研究では、その思想が主張する内容は、<復古主義><ロマン主義>の象徴であると理解され、時代錯誤的なものと否定的な評価を受けてきた。しかし、以上で述べたように、犬田の「土の芸術」論は、決して封建遺制に拘泥することなく、むしろそれを批判すべき対象とし、それを変革することを模索していたのであった。今後の課題としては、犬田の評すべき側面を明らかにすると同時に、彼の限界点についても分析を押し進めていきたい。 以上述べた研究成果は、「<農>による社会構想-犬田卯の農本思想-」という題目で、日本農業経済学会・2002年度個別発表(於:茨城大学農学部)において発表した。次年度中には、これをまとめ、論文として発表する予定である。
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