2003 Fiscal Year Annual Research Report
ソビエト連邦時代を経たウズベキスタンにおけるイスラーム実践と解釈の研究
Project/Area Number |
01J06327
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菊田 悠 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ウズベキスタン / フェルガナ地方 / ピール / 聖者崇拝 / イスラームギルド / 陶芸 / 徒弟制 / ソビエト民族政策 |
Research Abstract |
本年度は計6ヶ月、ウズベキスタンのフェルガナ州のリシタン市を中心にフィールドワークを行った。その成果の特徴は以下の点である。日本にいる間は文献調査などを行った。 1.ピール崇拝の現代的意義の分析:当該地ではイスラーム世界にかつて広く見られた職業ごとの守護聖者的存在ピールに対する信仰が、今日も見られる。注目すべきはそれがソビエト連邦時代の生産体制の大変化などを経て、ギルド的な職業組織のシンボルや数々の迷信的慣行の根拠としての存在から、個々の職人の日常生活とイスラームの結節点として彼らのムスリム意識を支えることに重点を移している点にある。ピール崇拝は個人ごとの周縁的な現象に過ぎなくなったのではない。むしろ近年、ピールに関する諸儀礼は一部の人の間で正統的教義に対照されて合理化し、より意識的に実践されつつある。宗教の現代的意義とその影響力を考える上で極めて示唆に富む現象である。 2.リシタン市の陶芸における徒弟関係の動態の分析:当該地の主要な産業である陶芸においては、ソ連時代を通じても親方と弟子の関係を軸に知識と技能が伝達されてきた。そこには上述のピール崇拝の他にも様々なイスラーム的用語で正当化された安定的で独占的なわざの供給システムを見出すことができる。しかし近年、市場経済の導入に伴ってこのシステムを無視した人々も出現し、波紋を広げている。当地の陶工たちがイスラーム的倫理を用いつつ、いかにこの揺れを修正しようとしているかを追った。 3.「リシタン陶芸の伝統」とイスラームの関係:ソビエト政権の民族政策には信仰以外の衣食住を民族の伝統として固定化し、博物館などに展示する特徴があった。その「伝統」概念の影響をうけつつも、時にはイスラームの解釈をも操作して市場向けに「リシタン陶芸の伝統」を売り込んでいく今日の陶工たちの意識を見た。
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