2003 Fiscal Year Annual Research Report
神経細胞の生存・分化における正常型プリオン蛋白質の機能解析
Project/Area Number |
01J06441
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西村 拓也 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | プリオン蛋白質 / 神経細胞株 / アポトーシス / cAMP / PKA kinase |
Research Abstract |
本研究では、レトロウイルスベクターを用い、SV40largeT抗原をType-1 Prnp^<-/-> mouse由来の標的細胞に導入する方法により、Dpl非発現型であるType-1 Prnp^<-/->不死化神経細胞株Npl1,Npl2(MAP-2陽性、NF陽性、GFAP陰性)を樹立した。また、同様の手法を用い、Type-1 Prnp^<-/->不死化グリア細胞株Gpl1,Gpl2(MAP-2陰性、GFAP陽性)を樹立した。これらの細胞株からPrPおよびDplの産生は確認されず、目的の細胞株を得ることに成功した。これらの細胞株は、無血清培養により、アポトーシス細胞死をおこす。そこで、神経細胞株Npl2にPrP遺伝子および、Dpl遺伝子をそれぞれ導入し、無血清培養下でのアポトーシス細胞死に与える影響について解析をおこなった。Prnp^<-/->神経細胞においてcaspase-9、caspase-3の活性化からアポトーシス細胞死がひきおこされる。PrP遺伝子導入はアポトーシス細胞死を抑制した。一方、Dpl遺伝子導入によるアポトーシス細胞死への影響は認められなかった。これにより、Prp^Cは、無血清培養によるアポトーシス細胞死を抑制し、その効果はDpl遺伝子の発現とは無関係であることが示唆された。また、グリア細胞株についても同様の効果が確認されたことから、PrP^Cのアポトーシス抑制効果は、特定の細胞種によらないことが明らかとなった。また、PrP遺伝子再導入によって、SOD様活性の上昇と、血清除去による細胞内のH_2O_2の上昇の抑制が観察された。PrP^Cの細胞胞死抑制のメカニズムとして、細胞内におけるreactive oxygen species(ROS)に対する防御反応が考えられた。更に、PrP^C発現グリア細胞株とNpl2を共培養したところ、PrP^C非発現グリア細胞株との共培養よりも、無血清培養による細胞死を強く抑えた。これらのことから、細胞膜上タンパク質であるPrP^Cは、細胞外においても酸化ストレスを減弱させる働きを有することが考えられた。この細胞での銅の添加は、Prnp^<-/->神経細胞ではさらに急激なH_2O_2の消費と、細胞死が観察された。初代培養神経細胞においても、どうような知見が観察されており、PrP発現を欠いた神経細胞への高H_2O_2条件下での銅毒性が、プリオン病の神経変性の一因ではないかと推測される。 PrP^C発現と神経細胞分化に相関があるかどうかについて検討した。初代培養細胞においては、PrP欠損神経細胞に分化の異常は認められなかった。しかし、Type-1 Prnp^<-/->不死化神経細胞株Npl2にPrP遺伝子を再導入した細胞株において、強い突起伸展が認められ、PrP発現がcAMP/PKA経路の活性化を介し分化誘導がひきおこすことが示唆された。これらの結果は、PrP^Cが神経分化のシグナル伝達系に関与していることを示唆している。銅結合蛋白質であるPrP^Cは、銅との結合を介して、細胞内のcAMPの活性化を調節し、神経突起の伸展を正負に調節している可能性が考えられた。本研究において、PrP^Cが酸化ストレスや銅の刺激を受容し、神経細胞の生存や分化に機能していることが明らかとなった。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] Akikazu Sakudo: "Absence of superoxide dismutase activity in a soluble cellular isoform of prion protein produced by baculovirus expression system."Biochem.Biophys.Res.Commun. 307. 678-683 (2003)
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[Publications] Atsutaka Kubosaki: "Expression of normal cellular prion protein (PrPc) on T lymphocytes and the effect of copper ion : analysis by wild-type and prion protein gene-deficient mice"Biochem.Biophys.Res.Commun. 307. 810-813 (2003)