2002 Fiscal Year Annual Research Report
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01J06557
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Research Institution | The High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
大原 高志 高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 粉末中性子回折 / 不飽和チオアミド / Rietveld解析 / VEGA / 非弾性中性子散乱 / MARI / ナノシリコン |
Research Abstract |
本研究は、結晶中で起こる水素原子の移動および反応を主に中性子を用いて解析するための方法論を確立すると共に、実際に科学として興味が持たれている結晶中水素の挙動を解明することを主な目的としている。 本年度は、固相で光環化反応を起こしてβ-チオラクタムを生成する重水素置換不飽和チオアミド化合物について、昨年度得られた光照射前の粉末中性子回折結果のRietveld解析を行った。加えて、low-Q領域の粉末中性子回折パターンが測定できるVEGA回折計(KENS)を用いて同様に粉末中性子回折測定およびRietveld解析を行った。一般に有機化合物結晶の粉末中性子回折は水素原子の非干渉性散乱が大きいために難しいとされているが、本研究では分子中の水素原子の約2/3を重水素原子で置換することによってこの問題を解決した。解析の結果、この化合物の結晶中でどこに水素原子が位置し、どこに重水素原子が位置しているかを粉末中性子回折の結果から求めることに成功した。一方、この光環化反応では重水素原子を導入することで進行が抑えられてしまうのだが、光照射条件を検討することによって、重水素置換誘導体でも固相で反応が進行する温度および照度の条件を見つけることに成功した。 現在、光照射後の粉末中性子回折測定に備え、測定に用いるサンプルへの光照射を行っている。 これに加えて、本年度は固体中の水素の挙動を観測する手法として非弾性中性子散乱に注目し、新たな発光素子として注目されている水素終端ナノシリコン結晶について、英国ラザフォード-アップルトン研究所の中性子散乱装置MARIを用いて非弾性中性子散乱実験を行った。その結果、これまで見つかっていなかったナノシリコン結晶中での水素原子の運動を新たに見つけることに成功した。この運動は発光のメカニズムに深く関わっていると考えられ、現在解析を進めている。 また、本年度は論文3報の他に、国際結晶学会サテライトミーティングにおいて本研究についての招待講演を行なった。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] T.Ohhara, S.Ikeda, H.Imura, H.Uekusa, Y.Ohashi, I.Tanaka, N.Niimura: "Direct Observation of Deuterium Migration in Crystalline-State Reaction by Single Crystal Neutron Diffraction IV"J. Am. Chem. Soc.. 124. 14736-14740 (2002)
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[Publications] T.Ohhara, S.Ikeda, I.Tanaka, N.Niimura, Y.Ohashi: "Neutron diffraction study of the crystalline-state photoracemization of a bulky alkyl group in a cobaloxime complex"Acta. Cryst. Sect. A. 58. 259-259 (2002)
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[Publications] 大原高志, 大橋裕二: "結晶化学における中性子とX線"波紋(日本中性子科学会誌). 13. 21-24 (2003)