2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
01J06686
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
細井 保 法政大学, 法学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | F・ボルケナウ / 全体主義 / ファシズム / 20・30年代ヨーロッパ政治 / オーストリア / 近代国家のアンチノミー / 亡命 / 文明の循環理論 |
Research Abstract |
F・ボルケナウと全体政治の時代 本稿では、全体政治の時代に生き、それと対決したヨーロッパの一知識人の苦悩に満ちた思索を跡づけた。その際、とくにボルケナウのファシズム論から全体主義論へと収斂していく中期の政治論、およびかれの隠された思想傾向を読み解く手掛かりをあたえるオーストリア論に焦点をあてた。ボルケナウは、全体政治における権力による社会、経済の統制という側面を重視し、この側面に限っていえば、それは近代の帰結として西欧世界に不可避的に出現するものであった。政治が社会、経済を制御することの不可避性にたいしていかに自由を対置させるのかという点に、かれの政治論の主眼があった。 工業化と民主化のタイムラグという点に焦点をあてて、ファシズムを特殊イタリアの現象として分析したファシズム論から出発して、やがて二〇世紀に成立した一党独裁制全般を、その非合理的側面に着目し、西欧近代全体を覆う全般的危機に結びつけて理解することによって、ボルケナウはファシズム論から全体主義論へと歩んでゆく。ボルケナウは、ボルシェヴィズムの工業化を推進する側面に注視し、一連の独裁制と同等視することをはじめる。やがて、スペイン戦争での経験をへて、ボルシェヴィズムはナチズムと自由の徹底的な抑圧を共有するものであるとの認識を深め、両者に決定的に敵対してゆくことになる。 晩年のボルケナウは、ジャーナリスティックなクレムリン学で生活の糧をえながら、西洋文明の古層への考究をふかめる。全体主義との対決のなかでイギリス型の自由を高く評価し、そこから西欧世界における自由の文明史的由来へと関心を向けていったのである。一九三〇年代初めに抱いていたヨーロッパ近代の成立への関心から、ヨーロッパそのものの成立へと関心をひろげてゆく。ただそこには、もはや三〇年代の社会科学的な手法はみられず、神話学や深層心理学に注目しながら文明の循環理論を構築しようとこころみる。
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Research Products
(1 results)