2002 Fiscal Year Annual Research Report
W.B.イェイツの演劇作品に見る20世紀的現実認識の構築と解体
Project/Area Number |
01J07929
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
岩田 美喜 東北大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | アイルランド演劇・劇場 / ナショナリズム / ジョージ・バークリーと主観的観念論 / 能と象徴主義 / 不条理演劇 / W. B. イェイツ / サミュエル・ベケット / オスカー・ワイルド |
Research Abstract |
当該年度は、前年度にダブリン大学トリニティ・カレッジで研究したアイルランド近代演劇論をふまえ、単著を執筆することに重点をおいた。 イェイツの文学を劇作家としての視点から掘り下げる試みである本書は、4章より成っている。第1章ではイェイツの自伝を読み解きながら、彼が幼少期から触れてきた演劇世界がいかに彼の文学活動に影響を与えたか、を分析した。第2章以下は、イェイツの演劇作品を年代順に取り扱い、ドラマツルギーの変遷を追い哲学的なアプローチも用いながら、彼の文学は民族主義に始まって不条理にたどり着くものと論じている。具体的には、以下のような分析を試みた。第2章で初期のナショナリズム色の強い作品『キャスリーン・ニ・フーリハン』を中心に論じ、そこに文学性とプロパガンダ性の一律背反を見て取る。第3章では、日本の能を取り入れた象徴主義的な『鷹の井戸にて』を、初演時の上演形態を考慮しつつ彼の新しい挑戦と見る。しかし舞踊性の強い演劇を経て、イェイツはやがて思想性の濃い文学へと移ってゆく。第4章では晩年のイェイツが哲学、とりわけ観念論に傾倒したことに着目し、この思想が後の不条理演劇と通底するものを有しているとする。彼の最晩年の戯曲『煉獄』に流れる思想は、サミュエル・ベケットの『エンドゲーム』を先取るような部分に満ちており、我々に20世紀演劇の特徴と本質を、余すところなく伝えている、と結論づけた。 また、当該年度の半ばには東北英文学会第57回大会で口頭発表を行う。20世紀初頭のアイルランド演劇の多様性を論じる目的で、オスカー・ワイルドの戯曲を取り扱い、「アイルランドのダンディー『まじめが肝心』における反-自然主義」という発表を行った。また、この発表を元に、大会Proceedingsに論文を寄稿。現在印刷中である。
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Research Products
(2 results)