2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
01J07930
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
土屋 忍 東北大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 南洋 / 東南アジア / アジア / 戦争 / 文学 / 日本 / 近代 / 移動 |
Research Abstract |
近代の「南洋」論に焦点を絞った論文を4編発表した。まず、「高浜虚子と<南洋俳句>-南洋の「夏」を遊びてモダニズム-」と題して<南洋俳句>とその背景を明らかにした。高浜虚子は、洋行の途上で自ら積極的に<南洋俳句>を作り、1940年には、『歳時記』を改訂して熱帯の季題を正式に採用した。南洋の俳人たちからの強い要望もあって実現した季題の拡張であった。<南洋俳句>が、フランスにおける「ハイカイ」、フィリピンにおける「ハイク」等とともに、俳句の近代化(国際化と土着化の共存)を促進してきた側面を指摘した。特集「モダニズム的表象」に寄稿。次に発表した「大正期「南洋」論の展開-鶴見祐輔と芥川龍之介-」では、「南洋」論の立場から芥川の小説「桃太郎」(1924)を読みかえた。すなわち、作中の「鬼が島」が在るのは「南洋」であり、「鬼」は読者に共感可能で人間的嗜みや情愛をもつ存在として表象されていた。それに対して「鬼」からみた「桃太郎」は、侵略のための侵略をして意気揚々たる「野蛮人」であった。そこには鶴見祐輔が同時代に描いた帝国主義的「南洋」像とは異なる「南洋」像が見出されることに着目して論述した。特集「幻想としての<地方>」に寄稿。続く評論「桃太郎の暴力」でも芥川の同作品をとりあげて、朝日新聞「天声人語」(2003年7月24日)の「桃太郎」論を批判した。「天声人語」は、行動における「大義」の重要さを読みとっていたが、芥川は「大義」の有無に関わらず生起し連鎖する「暴力」の問題をテーマ化しているのであり、桃太郎の「大義」の無さを皮肉っているわけではないとした。小林孝吉氏が主宰する『千年紀文学』に寄稿。最後に、「森三千代にみる戦時「南洋」文学の可能性-一九四〇年前後・翻案としての安南伝説-」では、森三千代の「南洋」文学の可能性について詳細に論じた。森三千代は、興味深い作家であるにもかかわらず詳細な年譜や書誌が存在しないため、独自の基礎調査を続けてきた。本稿はその成果の一部である。紀行文『晴れ渡る佛印』(1942)、そして安南伝説集である『金色の伝説』(1942)及び『龍になった鯉』(1944)をとりあげ、森三千代の仏印体験の所産が、伝説の翻案にあったことを論証することができた。二本分の枚数であるが論文集からの寄稿依頼に応じて一挙掲載とした。
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Research Products
(4 results)
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[Publications] 土屋 忍: "高浜虚子と<南洋俳句>-南洋の「夏」を遊びてモダニズム-"國文學(學燈社). 48巻5号. 217-228 (2003)
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[Publications] 土屋 忍: "大正期「南洋」論の展開-鶴見祐輔と芥川龍之介-"社会文学(日本社会文学会、不二出版). 19号. 112-124 (2003)
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[Publications] 土屋 忍: "桃太郎の暴力"千年紀文学(皓星社). 46号. 5 (2003)
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[Publications] 筑波大学文化評論研究会編: "翻訳の圏域-文化・植民地・アイデンティティ-(共著)"筑波大学(近刊). (2004)