Research Abstract |
東北地方の方言における文法事象について,特にヴォイスのうち,可能表現,受身表現,自発表現の特徴の解明を目的とし,以下の研究を行った。1.東北地方の方言を対象とした調査研究ならびに可能表現,自発表現,受身表現に関わる研究を収集。2.東北地方に特徴的な形式の分布から,3地点(岩手県盛岡市,宮城県石巻市,.山形県山形市)を代表に定めて調査票を作成。3.生え抜きの高年層を中心に臨地面接調査を実施。これと並行して石巻市において多人数調査を実施。4.昭和15年頃の東北方言を対象にした資料(小林好日氏による)を調査し,60年後の現代東北方言と比較。5.以上の調査で得られたデータに基づく考察から,以下の事柄を明らかにした。(1)東北方言における可能表現の主な形式には,助動詞レル,動詞終止形+ニイー/イ,いわゆる可能動詞の3種がある。これらの形式は可能の条件や文の肯否によって使い分けられており,能力に起因する場合は可能動詞,状況に起因する場合は肯定文で動詞終止形+ニイー/イ,否定文で助動詞レルを用いる体系が一般的だが,北東北では自発の助動詞サルも用いられるなど,詳細は地域によって異なる。史的には,昭和15年頃の可能表現肯定文では動詞終止形+ニイー/イと助動詞レルが主流だったが,60年後の現代東北方言では可能動詞が優勢で,年代差が目立つ。(2)受身文の動作主マーカーにはニ,カラ,サ等があり,直接受身ではカラ・ニ,間接受身のいわゆる迷惑の受身ではニ,持ち主の受身ではカラが主流であるなど,文によって使い分ける傾向が見られる。なお,サは若い世代で使用率が高い。(3)自発表現では,盛岡市の助動詞サル,山形市の助動詞ルについて比較を行い,特に助動詞サルが可能表現の体系に組み込まれる用法を有するのに対し,助動詞ルは可能表現に関わる用法を持たないことを明らかにした。
|