2002 Fiscal Year Annual Research Report
人と家畜との関係に関する行動学的研究:家畜福祉の向上を目指して
Project/Area Number |
01J09000
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
木場 有紀 広島大学, 大学院・生物圏科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 家畜 / 家畜の福祉 / オルタナティブファーミング / 放牧養豚 / 豚 / アンケート調査 / 行動調査 |
Research Abstract |
平成13年度の研究において、家畜は、人に対する認知能力と学習能力が非常に高く、家畜の福祉を向上させるためには、これらの能力を考慮した飼育管理を行わなければならないことが示唆された。しかし、従来の集約的な飼育管理システムでは、これらの家畜の能力を十分に活かすには限界があると考えられたため、平成14年度の研究においては、従来の飼育システムとは異なる新しい可能性を秘めたオルタナティブファーミングに焦点をあて、家畜福祉の向上を模索した。 オルタナティブファーミングの一形態である放牧養豚に着目し、わが国の放牧生産者を対象として調査を行った。放牧生産者を、牧草地や野草地において豚を放牧している生産者と定義し、豚をコンクリート張りの運動場に放飼している生産者は調査の対象外とした。全国47都道府県の中から21軒の放牧生産者を抽出してアンケートを郵送するとともに、現地において行動学的に豚の福祉を評価することを試みた。アンケートは11項目35問の質問から構成され、経営規模を始めとして放牧養豚に関する様々な考えについて質問し、生産者の家畜管理及び家畜の福祉に対する考え方を明らかにすることを目的とした。 返送されたアンケートを分析した結果、放牧生産者の多くは、これからも集約的な企業養豚が養豚生産の大部分を占めることを予想していたが、食品の安全性や家畜の福祉に対する消費者の関心の高まりとともに、家畜の能力を十分に発揮させ、家畜の福祉にも配慮した放牧養豚の占めるシェアは徐々に増加すると考えていた。行動学的調査から、放牧養豚は集約的管理に比べて、豚の基本的行動要求をより多く満たす傾向にあることが示唆された。また、わが国における放牧養豚は、肥育豚のみを放牧する生産者が多く、EUなど農業先進国のように繁殖豚を放牧する形態とは異なる傾向にあることが明らかとなった。またわが国の放牧生産は、全国の養豚農家の平均飼養頭数と比較すると小規模な傾向にあったが、生産者らは安全性や味に自信を持って豚の生産を行っていた。豚の放牧による疾病やふん尿の臭気の問題はほとんど認められなかったが、「土地が狭い」「柵のメンテナンスに困難を感じることがある」「表土が流れて水が溜まってしまう」などの問題があるという回答もあった。今後はこれらの問題点を解決して行くことで、家畜の福祉の向上を目指したオルタナティブファーミングをわが国に浸透させることが可能になると考えられた。
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Research Products
(1 results)