2003 Fiscal Year Annual Research Report
多抗原型共存下の感染動態を予測する数理モデルの研究
Project/Area Number |
01J09862
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
加茂 将史 九州大学, 大学院・理学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | epidemic model / SIR / seasonality / chaos / ESS |
Research Abstract |
疫学のモデルとして、SIRコンパートメントモデルが用いられる。これは、非線形な微分方程式である。このモデルを用いて、進化の行方を追いかけると、基本増殖率と呼ばれる、ある量を最大に進化がおきることが知られている。また、感染率などの疫学パラメーターが季節的に変動することを仮定すると、モデルの動態が非常に複雑になることが知られている。季節変動の強さに伴い、動態が季節変動の周期に同調していた物が、2年周期、4年周期、そしてカオスと分岐を起こすのである。 本研究では、季節変動の強さと、基本増殖率の関係を解析的に調べた。従来の研究では、疫学パラメーターが季節的に振動している場合には、基本増殖率を下げると考えられていた。これは、生活史進化の知識から得られる「幾何平均最大の原理」から予測されることであり、振動が幾何平均を下げるからである。解析の結果は、モデルに季節振動を加えても基本増殖率には影響しない、つまり変動環境下でも基本増殖率最大化の原理が成り立つことが証明された。ただし、侵入解析の結果から、進化の方向は季節変動の強さにも依存していることがわかった。つまり、進化的には最適な振動の強さが存在し、例えばウィルスが季節振動に対する適応進化を行うことができるのであれば、ある程度の季節的に変動するように進化することが明らかにできた。このことは、従来の振動を最小にする方向に進化がおきるという、生活史進化の結論とは全く逆の新しい結果である。そして、進化的に安定な変動の強さを求めると、それは分岐がおきた直後の変動の強さで、2年周期であることが明らかとなった。 麻疹や、風疹など、主に子供が感染する病気は2年周期で振動していることが知られているが、本研究での結論はこの現象を非常にうまく説明している。 この研究は現在投稿中である。
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Research Products
(1 results)