Research Abstract |
今年度はヒマラヤ山脈と同様の衝突帯である,ヨーロッパアルプス西縁部のフランスプロバンス地域と日高山脈西縁部の北海道中軸帯において,白亜系の構造地質学的・層序学的検討を昨年度に引き続き行った. 1)フランス南東部の研究結果 フランス南東部のDigne周辺地域は,第三紀のアルプス造山活動によって,白亜系が東傾斜の軸を持つ南北性の褶曲と東傾斜の南北性の衝上断層群による変形を被っている.同地域の白亜系について,微化石を用いて詳細な年代を解明することにより,衝上断層による地層の欠損量を定量的に計測した.また,白亜系を不整合に覆う前縁山地堆積物の時空分布から,同地域における衝突に伴う構造運動の時空変遷を考察した. 2)北海道中軸部の研究結果 衝突帯の前縁部である夕張山地から石狩低地帯に至る地域と,幌加内・朱鞠内から羽幌・小平にいたる地域の2箇所で,広域で詳細な地質図を完成させた.特に前者の地域では塊状泥岩が卓越し,岩相的に単調であるために,同地域の構造を把握することはこれまで全くなされてこなかった.しかしながら,微化石による精密な化石基準面を同定し,それらを広域にマッピングすることにより,岩相上識別不能な同一時間面をトレースすることが出来た.また,夕張山地の白亜系の泥岩中には,数10層の凝灰岩層も挟まれているが,各凝灰岩を識別することが困難なために,鍵層として用いられることもなかった.しかし,各化石基準面と組み合わせることにより,他の地域(羽幌・小平)にまで対比できることが明らかになった.これらの鍵層・化石基準面に基づく地質構造の解析の結果,双珠別衝上断層,芦別岳衝上断層,桂沢衝上断層という,3つの大規模な衝上断層を発見した.さらにこれらの断層によって,それぞれ10km以上の短縮が起こっていたことを解明した.以上の結果により,日高山脈西縁部の複雑な褶曲・衝上断層構造が復元され,島弧衝突帯前縁部における構造を解明することが出来た.この結果の一部をCretaceous Researchに投稿し,受理されている. これまで行ってきた,ヒマラヤ山脈,アルプス山脈,日高山脈の研究結果から,大陸間,島弧間の衝突過程における山脈の形成と,衝上断層の発達過程を比較検討した.その結果,島弧間の衝突では,前縁山地の地質体における衝上断層系の発達のみであるが,大陸衝突では,地殻深部の変成岩ナップの大規模な前進が起こり,前縁山地堆積物に変成を起こしながらのし上がっていくことが明らかになった.
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