Research Abstract |
1.今年度の調査内容 前年度に引き続き,北海道標茶町に位面する京都大学北海道演習林内の,流路沿いに湿地の広がる集水域(以下,A流域)と湿地の狭い集水域(以下,B流域)において,調査を行った。調査内容は,1)各集水域の,上流,中流,下流における渓流水の採取,2)流路周辺の地下水,土壌水の採取,である。渓流水や地下水は,水位と水温も観測した。 今年度はまず,融雪期,土壌融凍期に当たる昨年度3月から今年度5月にかけて,二週間に一度の渓流水の採水を行った。また,A流域において,上流部から中流部にかけて大きな水質変化が生じることが前年度に明らかになり,更に詳細な調査を行うため,A流域の流路周辺の湿地部全域に多量の塩ビパイプを埋設し,井戸観測網を設けた。 また,演習林内外の14河川から採取して得られた水質データをまとめた。 2.今年度の成果 欧米では,融雪期に渓流水の酸性化と溶存イオン濃度の変化が劇的に起こることが知られているが,本研究ではそれほど大きな水質変化は見られなかった。様々な理由が考えられるが,土壌凍結のために土壌中の溶存物質が融雪水により押し出されなかったことが,もっとも主要な原因であると考えている。 A流域の上流部から中流部にかけての湿地は地表面が高く,水位も渓流より50cmほど高かった。一方,中流部から下流部にかけての湿地では,地表面,水位ともに渓流とは大差がなかった。このことから,上流部から中流部にかけての湿地の地下水が渓流に流入することで,A流域の上流部から中流部にかけての大きな水質変化が起こることが示唆された。 森林内外の河川水質を調査した結果,渓流水が流域面積を広げながら流下する過程で,主要なイオン濃度は低下していた。その渓流水は森林外の河川の富栄養化物質を希釈し,森林が周辺の水質環境に対する緩衝能を持つことが明らかになった。その結果の一部は論文として学会誌に掲載された。
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