2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
01J10749
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
倉田 賀世 北海道大学, 大学院・法学研究科, 特別研究員DC2
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Keywords | 社会保障法 / 家族政策 / ドイツ |
Research Abstract |
本年度は、ドイツの家族負担調整を支える規範理念の形成過程を明らかにすることを目的として、ドイツ基本法6条の形成史を、ワイマール憲法119条からさかのぼる形で明らかにした。そこで判明したのは、ドイツの家族および婚姻の保護という理念は、既存の制度に対する社会主義勢力の反発に対抗する形で発生したものであり、それ故形成過程では制度の保護のための枠作りという視点が前面にだされ、その制度をなぜ保護すべきであるのかという原理的な議論はそれほど行われなかったこと、理念形成が、実存する家族や婚姻のNeedへの着目という視点を欠いていたが故に、保護の実質化を担保する実際の政策形成への言及もさほど行われず、その結果、ワイマール憲法については、家族あるいは婚姻に関わる領域での実質的な影響力をほとんど有しないと評価されるに至ったことである。一方基本法においては、形成過程での議論状況は、ワイマール憲法形成時とほぼ同様であったにもかかわらず、社会状況も考慮に入れつつ、規範の実質化をはかる連邦憲法裁判所判決によって、6条と家族政策との相互関連性が強められている。一連の判決の中で、わが国が直面している問題との関連で注目すべきものの一つに、年金制度における育児期間中の保険料免除に関わる理論構築がある。この点につき判決では、6条1項の「保護」解釈から「差別待遇の禁止」ならびに「経済的促進」という指針を導き出している。これにより、政府には児童を養育する者だけに養育費負担がかかることを回避し、同時に経済的支援をあたえる義務が生じる。この義務から、年金制度の中で、児童の養育を、その他の納付義務者の保険料拠出と同様に評価することが導出されるのである。ドイツでの議論では、純粋に児童の養育のみを考慮するという点が特徴的であり、このことが、その親である母親まで視野にいれたわが国の現在の議論状況との最大の違いであると思われる。
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