2003 Fiscal Year Annual Research Report
生態・行動の変異で区別されるハダニ近縁種間の生殖的隔離と多様化の起源に関する研究
Project/Area Number |
01J10901
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 幸恵 北海道大学, 大学院・農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 種分化 / 生殖的隔離 / ススキスゴモリハダニ / 競争 / スゴモリハダニ種群 / ハダニ / 側所的分布 / 単数倍数性 |
Research Abstract |
ススキスゴモリハダニSchizotetranychus miscanthi Saitoは、ススキに寄生し、集団で共同営巣する社会性のハダニである。このハダニのオスは、メスだけでなく巣をめぐって殺し合いをするが、このオス同士の攻撃性の強さには地理的変異がみられ、2型に分離することが報告されている(HG型とLW型)。この2型はどのように生まれ維持されているのかを探るために、2型の地理的、生態的、行動的、そして遺伝的関係を調べた。 1.2型の分布関係 南日本では2型の側所的な分布がみられ、標高が低く温暖な地域にはHG型が、標高の高く冬が厳しい地域にはLWが生息している。その中間の標高では2型は接触しているのかを知るために、平成13年度に長崎県雲仙普賢岳にて調査を行ったところ、標高100〜400mに分布境界領域があることがわかった。そこで平成15年度ではその分布境界領域で調査を行ったところ、2型の分布は重なっており、場所によっては2型は同所的に生息していることがわかった。 2.2型の生態的関係 ハダニの休眠性には地理的変異がみられ、それは地域適応の結果だと考えられている。2型間には休眠性に違いがあることが報告されているが、それは生息地域が異なることによるものなのか、それとも型の違いによるものなのかは定かではない。そこで、分布調査により同所的生息が確認された個体群を用いて2型の休眠性を調べた結果、型間で休眠性が異なることが明らかになった。また、生活史形質と寄主植物との適合性について調べたところ、HG型はLW型よりも発育日数が短く、メス成虫の寿命は長く、産卵数が多いことから、増殖能力が高いと考えられた。また、LW型が生息する地域のススキはHG型が生息する地域のススキよりも、両型において好適であることが明らかになった。従って、増殖能力はHG型の方が高いが休眠性の違いにより高緯度ではLW型が有利であるため、側所的な分布関係が維持されていると考えられた。 3.ススキスゴモリハダニの2型の交尾行動 2型間で生殖的隔離はあるが、容易に交尾はおこりハイブリッドが生まれる。ハイブリッドの繁殖特性を調べた結果、生存率も繁殖率も正常な個体よりも低いことがわかった。接触した分布関係をもちながら、2型が融合や崩壊をせずに維持されためには、型間で交配を避ける行動の存在が考えられる。そこで、交尾行動および繁殖行動を観察した結果、一方向ではあるが多少の交尾前隔離があること、そして両方向には強い交尾後接合前隔離があることが明らかになった。従って、交尾は行われるが、受精は抑制されるため、2型間で接触した分布でありながらも遺伝的に維持されていると考えられた。
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Research Products
(1 results)
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[Publications] Yukie Sato, Yutaka Saito, Takane Sakagami: "Rules for nest sanitation in a social spider mite, Schizotetranychus miscanthi Saito(Acari : Tetranychidae)"Ethology. 109. 713-724 (2003)