Research Abstract |
高血圧性心肥大とそれに引き続き起こる心不全は,高血圧における重要な合併症である。そこで,心肥大,心不全の病態形成に関する遺伝子群とその構造,機能上の多様性を解明することを目的として,以下の研究を行った。高血圧心肥大/心不全モデルとして,食塩感受性高血圧ラット(DSS)に高濃度食塩を負荷して作成した高血圧性肥大心,それに引き続いて観察される不全心と,正常リッターメイト心との間で量に差のある遺伝子の単離をDNAチップを用いて解析した。約8800個の遺伝子のうち,心肥大期に比して,心不全期に3倍以上あるいは1/3以下に発現量が変化する遺伝子は872個あり、その上位の23個の遺伝子について,チップで得られた発現量変化の妥当性を,real time PCRにより再確認した。次に,発現量変化が大きくかつ機能未知の遺伝子89個について,ラットの諸臓器から抽出したtotal RNAを鋳型に,半定量的なRT-PCRを行い,組織分布特異性を11の臓器について検討した。その結果,大多数の遺伝子は発現の組織特異性を認めなかったが,ほぼ心筋のみに発現するサイトカイン(仮称:DSS-10),心筋と脳,肺に発現する転写因子,心筋と骨格筋にのみ発現するホルモン代謝に関与すると思われる脱水素酵素様遺伝子,の3つを同定した。これらはいずれも心肥大,心不全における機能や動態がこれまで知られていなかったものである。ついで,ゲノムデータベース上で各々のヒトホモログの存在を確認し,さらにゲノムの構造を決定し得た。次に,インフォームドコンセントが得られた拡張型心筋症患者93人を対象に,各々の遺伝子のexonを中心にSSCPを用いて遺伝子多型を検索し,アミノ酸置換を伴うものも含めて複数の多型を見出した。それらの患者集団中の頻度は,一般集団96人中の頻度とほぼ同程度であった。しかしながら,DSS-10遺伝子のコドン326番目のスレオニンがイソロイシンへ置換する多型(T326I)は,高血圧を伴う拡張型心筋症患者6人のうち2人に認められるも,対照集団629人の2人にしか認められなかった。このことは,本変異が高血圧性拡張型心筋症と有意に相関することを示唆する(P=0.0004)。なお,DSS-10の326番目のコドンは,マウス,ラットのホモログで保存されていることから機能上重要と考えられ,現在変異による機能変化の有無を解析している。
|