Research Abstract |
我々は真核生物の複製開始因子であるORCのATPase活性がORCの不活性化(再複製開始抑制機構)に関与していると考え,この考え方が正しいことを,ATP結合型ORCがCdc6pと結合できるのに対し,ADP型が結合できないことを示すことにより証明した(Mizushima,T.,et al. Genes & Dev. 2000)。さらに,これまでその機能が未知であったCdc6pのATPase活性の機能解析も行った。我々は,Cdc6pが自身のATPase活性を使って,ORCの高次構造を変化させ,ORCが複製origin特異的に結合することを助けることを示した(Mizushima,T.,et al. Genes & Dev. 2000)。このORCの高次構造変化は,DNAヘリカーゼであるMCMを複製originに誘導することに関与していると考え,このことをATPase活性を持たない変異Cdc6pの機能を細胞内で調べることにより証明した(Takahashi N.,Tsutsumi S.,et al. J. Biol. Chem. 2002)。以上の結果は,Cdc6pのATPase活性がORCとは逆に複製を正に制御していることを示唆している。これらの研究は真核生物の染色体DNA複製制御の生化学的解析におけるブレークスルーになるという点で,重要であると考えている。細胞のがん化に伴い,DNA複製の開始制御機構も変化すると考えられているが,その実体は明らかではない。我々は上記の研究により,ORC,及びCdc6pのATPaseがDNA複製開始制御において重要な役割を果たしていることを示唆したので,これらの活性が細胞のがん化に伴い変化する可能性を考えた。そこで私は,ヒト正常細胞の核粗抽出液中にORC,及びCdc6pのATPase活性の促進因子が存在するか否かを調べた。粗抽出液をカラムにかけて調べたところ,ORC,及びCdc6pのATPaseに対する促進活性の複数のピークが観察された。がん細胞の核抽出液も同様に解析したことと,正常細胞とは違うカラムパターンを示した。その内,がん細胞で活性が低下しているORCのATPaseの促進因子の精製に最近成功した。アミノ酸配列からこの因子(ORC ATPase Stimulating Factor 1,OAS1と命名)が新規蛋白質であることが明らかになった。以上の結果は,細胞のがん化に伴い,ORC,及びCdc6pのATPase活性が変化することが,がん細胞の異常な複製開始に関与している可能性を示している。
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