1990 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02610181
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
馬場 恵二 明治大学, 文学部, 教授 (90139436)
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Keywords | 市民権 / 在留外人 / metaoikos(metoikos) / クレイステネスの改革 / アテネ民主政 / デルフォイの聖所 / アテネ人の宝庫 / パウサニアス『ギリシア案内記』 |
Research Abstract |
平成2年度は市民権などの特権付与の民会決議を録したアテネ出土の碑文史料の写真版を可能なかぎり収集して、次年度の作業の下準備を整えたが、研究活動そのものとしては前6世紀末のクレイステネスの改革直後のアテネの国内事情、とくに市民共同体としてのアテネ国家の成熟度に焦点を絞って考察した。筆者が1984年にアテネのケラミコス考古学博物館所蔵のアナクシラスの基碑台座のエピグラムに発見したmetaoikosの語と、筆者が提示したその推定年代(前506年)は、その後、世界の学界の注目を集めているように(SEG34,no.47;I.Mor提s,Burial and ancient society:The rise of the Greek cityーstate,1987;Ph.Manville,The Origins of Citizenship in Ancient Athens,1990)、同改革時における在留外人(metoikos)身分の創設を示唆して貴重であるが、乏しい同時代史料の不足を補うものとして筆者が新たな注意を喚起したいのは、外地デルフォイの聖所におけるアテネ国家の奉納活動である。コリントなどの先進国はすでに前7世紀末の段階で同所に「コリント人の宝庫」を奉納しているが、アテネ国家による奉納はようやく前6世紀末になって始まる。この際、もっとも問題となるのは「アテネ人の宝庫」の奉納である。パウサニアス『ギリシア案内記」10巻11章5節はこれを前490年のマラトンの合戦に関連づけて解説し、同宝庫南側「三角テラス」の現存碑文の文面(ML19)もこれを支持するかのようであるが、建築・彫刻の様式面からは前490年以前の造営と推定されている。筆者は同宝庫の造営年代を、同聖所の「アテネ人の列柱館」(奉納碑文ML25の「敵軍」polemioiの語に注目)ともども前506年の外部勢力の武力介入を排除したアテネ民主政のかつ目すべき勝利と関連づけるのが妥当な解釈と判定する。
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