Research Abstract |
本課題の基本的な目的は,学校の算数が,どのようなタイプの談話(言語ゲ-ム)の中に埋め込まれており,そのことが算数の学習をどのように方向づけ,また,妨げているかを明らかにすることである.そのための方法として,児童が意味のない,あるいは,非現実的な算数の文章題をどのように評価するかについての調査,および算数授業の談話分析といったものを用いた.児童による算数の文章題の評価の調査は,分数,割合の分野を中心に行われたが,その結果は以下のように要約できる. 1.たとえば,5mを三分の二等分するというタイプの意味のない文章題について,小学校6年生の70%余りが,計算はできるから算数の問題としてはおかしくないという選択肢を選んだ.この問題は,児童が問題中の数値の現実性を評価できるかどうかというよりは,分数の意味的な理解を問うものであり,その他の調査とあわせて考えれば,分数,割合の分野については,かなり多くの児童が概念的,意味的な理解に困難があることが示されたといえる. 2.(人の着る)4分の1gの洋服といった非現実的な数値が用いられたタイプの問題についても,多くの問題で小学校6年生でも70%以上が,4分の1gの洋服なんて実際にはないから変な問題だという選択肢ではなく,むしろ,計算できるから算数の問題としてはおかしくないという選択肢を選んだ.この結果は,児童が算数問題に関しては,それが現実的なものでなくてもかまわないと考えてしることを示している. 3.たとが3分の2mで,横が2分の1の面積を求めるというような問題では,ほとんどの6年生が,この問題は,2分の1の単位がないからおかしな問題だという選択肢を選んだ.この結果は1,2のタイプの問題とは対照的に,児童は形式的な表現には敏感であることを示している. 1のタイプの分数や割合の概念や意味を問う問題と,2のタイプの文章題の現実性を問う問題は,明らかに異なったことを聞いているものである.たとえば,2のタイプの問題で4分の1gの人間の洋服などは存在しないことは,だれでもわかっているであろう.それに対して,5mを3分の2等分することの"意味"については,よく理解されていないように思われる.しかし,この二つのタイプの問題に対する解答のパタンの背景は共通していると考えられる.つまり,1,2いずれのタイプの問題に対する反応も,児童が算数という教科においては,計算の形式的な側面を重視し,その意味や現実性を問わないことを示しているのである. 算数の授業における談話分析の結果は,以上の調査結果と整合的であった.小学校算数の一つの特徴は,一つの学年,分野をとわず,算数の授業では,多くの時間をたとえば,"もとにする"とか"もとにる量"といった(その概念の意味的な吟味ではなく)国語的な算数用語の学習に費やしているということである.もう一つの特徴は,各分野における導入段階では確かに具体例,具体物が豊富に用いられているが,それが必ずしも現実的であるとは限らないということである.あるいは,具体例を用いていても,その現実性を吟味する局面はないのである.
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