Research Abstract |
1.平成3年度の算数の授業分析によって明らかになったことは,以下の二点に要約できる.第一に,単元の導入で,確かに具体的な事例が呈示されるが,その目的が,あくまで公式を導くためだということである.つまり,具体的な事例は,数学的にいろいろな角度から吟味するための対象やモデルというよりは,公式を導く道具として位置づけられているにすぎない.第二に,導入で用いられるその事例は,具体的ではあるが,現実性に乏しい.また,普通の授業の中では,問題や問題中の量についての生活的,工学的な現実性の吟味がなされることは見いだすことはできなかった. 2.概数に関する調査では,小学校4年,5年生とも,概数はあくまで四捨五入などの手順として学習され,実用的に目的の応じて概数のレベルを自ら設定するという感覚が乏しいことが明らかになった. 3.どのように意味のない,非現実的な問題でも解くTEACHERというソフトウェアの動作をデモンストレ-ションしたり,また,そのふるまいを子ども自身シミュレ-トしてみるというような実験授業によって以下のことが明らかになった.第一に,多くの子ども(小学校6年生の90%以上)は,「ボ-ル6個×ボ-ル3個はいくつ」というような意味のない問題は,この授業によって,その無意味さを指適できるようになることがある.しかし,例えば,「体重6gの女の子」というような非現実的な量については,過半数以上の子どもが,これが非現実的とは指摘しないのである.これは,平成2年度と同じ結果である.第二に,TEACHERのふるまいをテ-マにして教室で子どもたちに議論してもらったところ,何人かの子どもは,「体重6gの女の子」といったことが非現実的な量だと明確に指摘するが,他方,これは算数の問題だからどんな非現実的な量でも構わないと強く主張するのである.こうした主張には,学校によって形成された子どもの算数観といったものが明確にあらわれている.
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