2002 Fiscal Year Annual Research Report
チンパンジーの認知と行動:人間の知性の進化的起源を探る試み
Project/Area Number |
02F00006
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松沢 哲郎 京都大学, 霊長類研究所, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
BIRO DORA 京都大学, 霊長類研究所, 外国人特別研究員
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Keywords | チンパンジー / 認知機能 / 数字 / 象徴的見本合せ / 図形文字 / ストループ効果 / 反応時間 / 大小判断 |
Research Abstract |
京都大学霊長類研究所のチンパンジーを対象として、認知機能の実験的分析をおこなった。とくにアイ(26歳)と名づけられた個体は、人間の使う文字や数字をある程度認識するようになった。その比較としてペンデーサ(25歳)を研究の対象とした。装置はタッチパネルつきのコンピュータである。今回与えた課題は、象徴的見本合せ課題である。まず予備的な研究として、色を見本刺激として、選択刺激として提示される図形文字に合わせたり、漢字に合わせたりする弁別課題をおこなった。測定したのはその反応時間である。判断に要した時間をミリ秒の単位で計った。その予備的研究から、アイでカラーストループ効果の存在を示唆するようなデータを得た。すなわち「緑色で描かれた赤という漢字」の色を「緑」と答えるために要する時間が長くなるという現象である。こうした現象の存在はアイが習得した文字が、われわれ人間と同じような意味情報を担っているという大きな証拠だと言える。ストループ効果は色と文字だけでなく、拮抗する2つの情報の処理過程にあらわれるものだと考えられる。そこで、ストループ効果の普遍性の検証をおこなった。具体的には、「数字とその文字数の不一致」課題である。たとえば、「4というアラビア数字が3個ある」とき、その個数を「3」と答えれば正解なのだが、どうしても「4」と答えてしまいそうになる。間違えないまでも反応時間が長くなる。すなわち個数を答えようとしても数字がもつ意味情報がどうしても拮抗してしまう。実際にアイを被験者とした研究から、数字でもストループ効果が検出された。アイは数字の意味を理解しているという強い証拠である。さらに個数の大小判断、すなわち「多い」方を選ぶという場面で数字の個数をたずね、数字の意味を知っているアイ、数字の意味を知らないペンデーサで、どのような差が見出せるか検討を重ねている。
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[Publications] Sousa, C.: "Behavioral development in a mateling-to-sample task and token use by an infant chimpanzee reared by his mother"Animal Cognition. (in press).
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[Publications] 友永雅己, 田中正之, 松沢哲郎 (編著): "チンパンジーの認知と行動の発達"京都大学学術出版会. 508 (2003)
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[Publications] 松沢哲郎: "進化の隣人 ヒトとチンパンジー"岩波書店. 210 (2003)