Research Abstract |
本研究は,ボールゲームなどに見られる時間空間的にタイミングを一致させる課題において,従来の「ボールをよく見よ」ということよりも,緩やかにぼかした見方(ファジービジョン方略)の方が知覚的に能動的受動状態を作り出し,眼球運動及び運動系の効果器予測時間にゆとりをもたせ,パフォーマンスに効果的な方略となるという我々の新知見をスポーツの実践で適用できる効果的視覚・認知的方略を提案するための研究である.そのため,本年度には「多様な運動視標提示位置における特定注視点による単純・選択反応時間への効果」について検討を行った.実験方法は,注視点の刺激提示パターンを操作し,注視点に対する被験者の注意の負荷を変えながら,注視点の周辺8方向(右方向を0°とし,45°,90°,135°,180°,225°,270°,315°)に対し,注視点から視角直径1°,2°,3°,4°,5°になる計40ポイントの位置に運動視標を提示し,小筋及び大筋動作による単純・選択反応時間を計測した.注視点及び運動視標の提示と反応時間の検出は,今まで正確な即時処理が困難であったWindows OSにDirectXのAPIを用いてプログラミングすることで,ミリ秒単位の精度を持つシステムを構築した.実験の結果,1)注視点に対する空間的注意の水準が減っていくほど反応時間の短縮が見られた.このことは,空間的注意の解除は眼球運動だけではなく,身体運動の反応時間にも促進効果があることがわかった.また,2)注視点に対する空間的注意の水準に関係なく,全被験者は注視点の真下へ視角直径2°及び3°離れた位置に現れる運動視標に対し最も短い反応時間が見られた.この条件での反応時間は,運動視標を視野の中心で注視することよりも,単純反応で5〜10ms,選択反応で10〜20ms早かった.すなわち,サッカーのキーパー,野球の打者らは運動が予想される視標の真上の視角2°・3°離れた位置に視線を置くことで,パフォーマンスの向上が大いに予想される.次年度は,これらの結果に基づき,実験課題を3次元へ拡張し,パフォーマンスを向上させる効果的な注視点の特定を行い,フィールドで検証し学会発表・論文投稿を行う予定である.
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