2003 Fiscal Year Annual Research Report
インドベンガル地方の地下水中のヒ素の挙動とその地球化学的対策法の開発
Project/Area Number |
02F00189
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
高橋 嘉夫 広島大学, 大学院・理学研究科, 助教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
BHATTACHARYYA Rupa 広島大学, 大学院・理学研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | ヒ素 / XAFS法 / 酸化還元反応 / 酸化鉄 / 水-岩石反応 / As(III) / As(V)比 / 有機ヒ素 / イネ |
Research Abstract |
インド西ベンガル地方におけるヒ素汚染に関する以下の研究を行った. (1)土壌中のAs(V)/As(III)比の定量に基づくヒ素の溶出挙動の解明 〔緒言〕インド西ベンガル地方におけるヒ素に関する研究は数多く行われているが、未だ完全なヒ素溶出メカニズム解明には到っておらず、急務の課題である。本研究では実際のフィールドで採取したサンプルを用いた実験と室内実験の両結果をもとに、ヒ素の土壌・地層-土壌水・地下水への溶出メカニズムを明らかにすることを試みた。 〔試料・研究手法〕インド'・西ベンガル州の土壌(湛水および非湛水状態のもの)を用いた。採取時のpH,Ehも測定した。土壌水・地下水中のAsおよびその他の元素(Cr,Fe,Mn,Ceなど)の定量についてはICP-MS・AESで測定し、湛水・非湛水状態の土壌試料中の各元素の存在状態(価数)決定にはKEK PF-BL12Cにて蛍光XANES法をもちいて測定した。加えて選択的溶出実験により、各元素がどの土壌相(交換性陽イオン・炭酸塩・マンガン酸化物・鉄酸化物・有機物の5相)に濃集しているか検討した。また、室内実験では土壌試料を水分飽和度・pH・温度を変化させて、Asおよび各元素の液相への溶出を特に酸化還元状態の変動に注目してその影響を調べた。 〔結果と考察〕土壌水・地下水中ではAsを含むほとんどの元素において、非湛水状態下よりも湛水状態下で高い濃度がみられた。このことは室内実験でも同様の傾向を示していた。蛍光XANES法の測定結果は、湛水土壌でAsはAs(III):As(V)=60:40の割合で存在しており、還元状態で多く存在していることがわかる。選択的溶出実験では湛水・非湛水ともにAsは鉄酸化物相に最も多く濃集していた。また、土壌水・地下水中濃度および溶出実験において、もしAsの溶出が鉄酸化物だけに依存しているならばFe/As比は湛水・非湛水にかかわらず一定になるはずである。しかし、両実験におけるFe/As比は湛水土壌のほうが非湛水土壌よりも大きくなっており、Asの溶出はFeの溶出のみに依存していないことが推測される。以上の結果より、Asの溶出に還元的環境での鉄酸化物の溶出が影響している(Nickson, et al.,2000)というこれまでの見解に加えて、還元が進むにつれAs自身がAs(V)からAs(III)に形態を変化し溶出しやすくなることで、As全体の溶出にも影響してくるということが本研究において考察された。 (2)イネ中のヒ素化合物のXAFS法によるスペシエーション 〔緒言〕インド西ベンガル地方では稲作が主体となっているため、ヒ素を含む土壌からイネへヒ素が移行した場合のヒ素の化学状態の変化は、ヒ素の毒性評価や挙動解明のために重要な研究課題である。 〔試料・研究手法〕インド・西ベンガル州のヒ素の汚染がみられる土壌とヒ素汚染が進行していない土壌でイネを採取した。これを根、茎、実などに分離し、EXAFS法によるヒ素のスペシエーションを行った。実験は、高エネルギー加速器研究機構Photon Factory BL-12Cで行った。 〔結果と考察〕いずれの試料でも、ヒ素のK吸収端EXAFSスペクトルを得ることができた。考えられるヒ素の化学種として、酸素との二重結合を持っている無機ヒ素と、イネの中で生成し、炭素と一重結合を持つ有機ヒ素がある。本研究の結果、EXAFSパラメータである結合距離およびデバイワーラー因子からこれらのヒ素の化学種が区別可能であることが分かった。生体中のヒ素の状態分析には、HPLC結合ICP質量分析計などが用いられるが、この方法の場合には試料の分解操作が必要で、この間にヒ素の化学形態が変化してしまうため、適切な分析手段とはいえない。しかしEXAFS法では完全非破壊の条件でヒ素の状態分析が可能なため、ヒ素のスペシエーション法として今後重要になると予想される。
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Research Products
(4 results)
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[Publications] R.Bhattacharyya et al.: "Groundwater arsenic mobilization in the Bengal Delta Plain and Laterite, the possible remedial measure-A case study"Applied Geochemistry. 18. 1435-1451 (2003)
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[Publications] R.Bhattacharyya et al.: "Use of "red earth"-low cost remedial option for arsenic removal"JOURNAL DE PHYSIQUE IV. 107. 177-180 (2003)
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[Publications] R.Bhattacharyya et al.: "High arsenic groundwater : Mobilization, metabolism and mitigation - an overview in the Bengal Delta Plain"MOLECULAR AND CELLULAR BIOCHEMISTRY. 253. 347-355 (2003)
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[Publications] D.Chatterjee et al.: "Mobilization of arsenic in sedimentary aquifer vis-a-vis subsurface iron reduction processes"JOURNAL DE PHYSIQUE IV. 107. 293-296 (2003)