Research Abstract |
本年度時文献研究および現地における予備調査を中心に研究を進めた。今年度に行った研究によって得られた成果は以下の通りである。 1.文献研究 日本語と韓国語における呼称研究は,人称代名詞という西欧語の文法範疇に当てはめたものや敬語法と関連付けたものが多く,対照研究においてもそれぞれ西欧語との比較が多かった.しかし,西欧語に比べ数が多いとされる日本語と韓国語の人称代名詞は,その用法では非常に限られており、話し手自身や聞き手を指し示す場合,両言語では人称代名詞のほか,実名・愛称,地位・役職名,職業・役割名,親族名称など,多彩なバリエーションの中から呼称を選択することが多い.そのため,両音語の呼称は,人称代名詞という西欧語から移入された文法範疇以外のものも扱う必要がある.また,日本と韓国での共通の枠組みによる呼称表現の社会言語的研究は,呼格的用法においても、代名詞的用法においてもまだ断片的で,両書言語の呼称用法を知る上で直接役に立つデータのないのが現状である. 2.予備調査 予備調査では、非親族に対する呼称(代名詞的用法の対称詞)を取り上げ,日本語と韓国語の非親族に対する呼称にはどんなものがあるかを明らかにするとともに,年齢の上下を呼称選択の軸にしてその使い分けを観察した場合,日本語と韓国語ではどのような相違点と類似点があるかについて検討することを目的とした.その結果,(1)既知の人に対する場合,両言語では,親族名称,実名・愛称,人称代名詞,地位・役職名,職業・役割名などが呼称として用いられている.呼称表現の使用をみると,韓国語では年上に対しては親族名称が,同年輩,年下に対しては実名・愛称で言及するのが一般的である.これに対し日本語では,同僚や知人においてごくわずかな親族名称だけが用いられているだけで,非親族に対しては実名・愛称で相手のことをとらえることが圧倒的である.(2)一方見知らぬ人に対する場合,両言語では,親族名称,人称代名詞などが用いられているが,親族名称の使用には違いが見られ,日本人に比べて韓国人のほうが多用していることが分かった.また日本人の場合,「呼ばない」と回答しているケースも多く見られた.
|