2003 Fiscal Year Annual Research Report
景観構造と送粉者の行動パターンが稀少植物のジーンフローと絶滅リスクに与える影響
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02J00063
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田中 健太 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 特別研究員(PD)
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Keywords | クロビイタヤ / ジーンフロー / 森林断片化 / 種子充実率 / 遺伝構造 / 遺伝的分化 / 遺伝的多様性 / 空間スケール |
Research Abstract |
生息地の断片化はジーンフローを妨げ、繁殖成功の低下・遺伝的多様性の減少を通じて種の存続に影響を与える可能性があり、希少植物ではとくにその懸念が大きい。今年度は、北海道千歳市郊外の、断片化された大小さまざまな森林に生息している絶滅危倶IB類に指定されているクロビイタヤ(Acer miyabei.var.miyabei)の繁殖成功に森林断片化が及ぼす影響を生態調査と遺伝解析(DNAマイクロサテライト3座による近交係数と他家受粉率)で調べた。繁殖が森林断片化からどのような影響を受けるかは、各繁殖プロセスの空間スケールと密接に関わっているので、開花から種子散布までの各プロセスの空間スケールを検討した。 その結果、開花フェノロジーは2km以上という広い範囲で同調しており、断片林間の交配も潜在的に可能であることがわかった。種子の99%は約50m以内に散布されることが分かり、断片林間では種子を介したジーンフローは妨げられていた。クロビイタヤの基本的な繁殖特性を調べた結果、雄・雌・両性個体が存在しており両生個体には雌雄異熟性があり、弱い自家不和合性があった。そのため自家受粉が起こりにくく、成木と種子の近交係数が同程度であることからも集団全体の自家受粉の頻度が小さいことが示唆された。種子の充実率は、母樹から半径50m以内の成木数が減ると顕著に下がった。とくに孤立木の場合には0.01と極端に低い充実率を示す一方で健全種子の他家受粉率は少なくとも0.75以上と高かった。この充実率は、強制自家受粉を行った場合よりも低く無受粉処理の場合と同程度である。ここから、近隣個体が減って他家花粉が得られなくなると受粉そのものに失敗すること、そして小数の健全種子は遠距離交配由来になることが分かった。また50mという範囲がおもに花粉散布が行われている範囲であり、このスケールでの断片化が充実率低下を通じて繁殖成功を大きく下げることが示唆された。
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Research Products
(4 results)
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[Publications] R.Harrison, T.Kenta, et al.: "The diversity of hemi-epiphytic figs in a Bornean lowland rain forest, or Why strangle your host?"Biological Journal of Linnean Society.. 78. 439-455 (2003)
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[Publications] 中静透, 田中健太, 他: "白神山地における異なった構造をもつブナ林の動態モニタリング"東北森林科学会誌. 8. 67-74 (2003)
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[Publications] T.Kenta, T.Nakashizuka: "Variability in pollination conditions, pollen dispersal patterns, and pollen relatedness : an example of a tropical emergent tree."Tropics.. (in press).
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[Publications] 堀道雄, 田中健太, 他: "生態学-個体・個体群・群集の科学"京都大学出版会. 1304 (2003)