Research Abstract |
日本に生育するタヌキモ類,3グループ(タヌキモ,イヌタヌキモ,オオタヌキモ)のうち,タヌキモは種子が出来ない不稔集団とされている.本研究の目的は,タヌキモにおける不稔現象の原因を明らかにすると共に,タヌキモ集団の形成および維持機構を解明することである. 本年度は,花による形態分類,交配実験,葉緑体DNA分析,AFLP分析をおこない,以下の事実を明らかにした. 1)不稔グループであるタヌキモはイヌタヌキモとオオタヌキモの雑種である. 2)雑種であるタヌキモの形成は種子親としてイヌタヌキモ,花粉親としてオオタヌキモの場合が圧倒的に多く,その組み合わせは内的な交配親和性によって決まっている. 3)解析したほぼ全てのタヌキモ集団は雑種第一代であり,戻し交配は起きていない. 4)雑種起源にも関わらず,タヌキモの遺伝子型は集団ごとに異なっており,極めて多様である. オオタヌキモとイヌタヌキモの生育適地は明らかに異なり,前者は泥炭湿地,後者は溜め池などの人工的環境に分布している.タヌキモはその中間的なハビタットに広く分布していることから,親種の形質を受け継ぎ,広範な適応能力を獲得したとも考えられる.また,浮遊性の水生植物であるタヌキモ類は,水鳥による長距離散布が可能であると共に,無性生殖によって短時間で生育適地を占有することができる.雑種第一代と考えられるタヌキモが,湖沼ごとに多様な遺伝子型を示し,広い分布域を持っているのは,このような生態的特徴を反映したものといえる.しかし,タヌキモ,イヌタヌキモ,オオタヌキモが同時に分布している場所は確認されておらず,どのような環境でタヌキモが形成され,分散,定着しているのかについては今後の課題である.
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