Research Abstract |
近年,ナガサキアゲハというチョウが国内で分布を拡大しつつある.本種は1900年代前半には西南日本が分布北限であったが,2000年までには関東地方南部でも定着が確認されている.本種の生態,形態的情報から,分布拡大は本州の個体群に由来する集団によるものだけでなく,亜熱帯地域から近畿地方以北へ移入した個体に由来する集団が定着している可能性も指摘されている.本研究の目的は,本種の個体群構造を明らかにし,分布拡大のルートを推定することである.2003年度までに沖縄本島(以下,沖縄),鹿児島市(鹿児島),大阪府箕面市(大阪)産の個体についてミトコンドリアゲノムの解析を終えたが,2004年度は,鹿児島県奄美大島(奄美大島)と和歌山市(和歌山)産の個体も解析に加えた結果,沖縄,奄美大島,和歌山,および鹿児島・大阪産の個体が区別可能となった.そこで日本各地の17個体群365個体を解析し,個体群間の遺伝的距離を求めたところ,本種は沖縄,徳之島・奄美大島,宝島・屋久島,鹿児島・対馬・山口・広島・静岡,そして足摺・室戸・大阪・和歌山・紀伊大島・愛知・神奈川の5グループに大別できることが明らかとなった.なお,亜熱帯地域に固有のハプロタイプは鹿児島以北からは検出されなかった. 本研究の結果から,本州での分布拡大はすでに定着していた日本本土の個体群に由来する個体によってもたらされたと結論できる.本州における分布拡大経路については,九州・中国地方から近畿地方への侵入と,四国地方から近畿地方へのルートが明らかとなり,現在の近畿以北の個体群は,近年の分布拡大にともなって過去に分断されていた集団が二次的に交流している状況と考えられる.
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