2002 Fiscal Year Annual Research Report
民族の和解に関する宗教社会学的研究-近現代南アフリカ社会の事例分析
Project/Area Number |
02J00776
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阿部 利洋 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 南アフリカ / 真実和解委員会 / 政治と宗教 / エチオピア正教会 / 正義和解研究所 / 紛争後社会 / 多元性 / 規範制作 |
Research Abstract |
前半期は、研究課題の理論的背景を整理し、その知見を近現代南アフリカ社会におけるキリスト教的理念と実践の変容に関して応用することに費やした。具体的には、宗教社会学説史の通覧および、そのなかで政治領域における宗教的要素の復活あるいは再適応とされる現象に対する分析に焦点をあてた。ここでは、従来の学説的傾向として、紛争・対立や先鋭的なナショナリズムに寄与する宗教的諸要素への着目は広範に共有されているものの、紛争後社会・多元社会という問題設定における宗教的機能は比較的看過されがちであるということが明らかになった。そこで、こうした理解をふまえて、エチオピア正教会をケーススタディとした宗教間対話論を構想、執筆した。近代南アフリカ社会における宗教的な政治改革運動の先鞭をつけたのが、1920年代以降急速に広まったエチオピア派独立教会であったことから、そのオリジナルであるエチオピア正教会の宗教実践とそこから引き出される形式的な含意を整理する必要があると考えたのである。 後半期には、より現代の事例に視点をうつし、アパルトヘイト終焉前後のキリスト教系知識人と政治指導者の言説に注目した。南アフリカの政権移行をめぐっては、南アフリカ国内において人種政策(なかでも真実和解委員会)に関する積極的な論理的擁護を展開してきたのがキリスト教系知識人であったからである。そこで、1月から3月にかけてケープタウンとジョハネスバーグにおいてインタビューを重ねることで言説の検証を行った(主たる訪問先は正義和解研究所The Institute for Justice and Reconciliation)。この間の研究を通じて浮かび上がってきた現実が、その宗教的社会実践の軸として独自のシンクレティズムと世俗主義が機能しているというものである。この観点は現地滞在中に、'Christian Principles in a Social Transition'というテーマで論文にまとめ(African Study Monographs誌に投稿予定)、関連研究者の指導を受けた。
|
Research Products
(1 results)