2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J01315
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川名 雄一郎 京都大学, 大学院・経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | J・S・ミル / 文明社会 / 哲学的急進派 / ヨーロッパのアメリカ観 / 功利主義 / トクヴィルとミル / 国制改革 / 社会認識論 |
Research Abstract |
今年度は、J・S・ミルの『論理学体系』(1843年)出版以前の思想形成期の研究を集中的に行い論文として公表した。今年度の補助金は、主に(1)ミル研究および、関連する近代イギリス社会思想に関する書物の購入、(2)連合王国ロンドン大学におけるミルに関する文献・資料の収集および調査、(3)情報機器の購入、に充てられた。 執筆した論文は、「J・S・ミルと文明の概念」および「J・S・ミルとアメリカ-思想形成期における意義」である。 前者では、1830年代に獲得され、その後一貫してミルの社会認識の基礎を提供した「文明」概念の形成過程とその意義について論じた。文明という概念は、当時のヨーロッパ思想界においてしばしば用いられたタームであったが、思想家によって内実が大きく異なるものであった。そこでミルの文明概念を、その形成過程における他の思想家からの影響関係から検討するとともに、成立した文明概念を他の代表的な思想家のものと比較することで、その独自の意義を明確にすることができた。本論文は、『調査と研究』(京都大学)25号、2002年10月、に掲載された。 後者では、同じく、1830年代のミルの議論のうち、ミルが文明社会認識を獲得する上で重要な素材となったアメリカについての議論を、文明概念やデモクラシー概念との関わりから論じるとともに、その認識を同時代の文脈の中で詳細に検討することで、その独自なアメリカ観の特徴と意義を抽出することができた。すなわち、ミルはアメリカとイギリスの共通点と差異に着目することで、貴族なきデモクラシーであるアメリカは多数の暴政に傾斜する危険を持つが、イギリスは貴族が多数の暴政への防波堤となることで、むしろアメリカ以上にデモクラシーに適合的な状態にある、という特徴的な議論を展開することで、多数の暴政を引き合いに出していた改革反対派に対抗し、改革支持の論陣を張っていたことを明らかにした。本論文は、『思想』(岩波書店)に2003年中に掲載されることが決定している。
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