2003 Fiscal Year Annual Research Report
溶液内における電子緩和とエネルギー散逸のダイナミックス
Project/Area Number |
02J01353
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井内 哲 京都大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | Ni^<2+>水溶液 / モデルハミルトニアン / CRKモデル / 電子吸収スペクトル / 電子緩和 |
Research Abstract |
本年度は、最初に水溶液中におけるNi^<2+>の電子状態を記述するモデルハミルトニアンを完成させた。このハミルトニアンは定量的に十分な精度を持つ上に、CRKモデルを通じて溶媒の分極揺らぎの効果も含んでいる。構築したハミルトニアンを用いてNi^<2+>水溶液の基底状態の分子動力学シミュレーションを行った。その結果を実験及び過去のシミュレーションと比較することで、モデルがNi^<2+>の水和構造等の基底状態の物性を精度良く再現することを確認した。 次にシミュレーションから電子吸収スペクトルの計算を行った。得られたスペクトルは実験結果と良く一致しており、励起状態の記述の信頼性も十分であることが確かめられた。また遷移双極子のモデル化も行い、従来良く使われるコンドン近似がNi^<2+>水溶液の系でも適用できることを示した。さらに統計理論を適用することで、吸収スペクトルの線形がinhomogeneous broadeningで説明され、水のダイナミックスの影響はほとんどないことを示した。実際、電子吸収スペクトルの同位体効果はほとんど見られなかった。現在、以上の結果を論文としてまとめており、近日中に投稿を予定している。 構築したハミルトニアンの更なる改良としてスピン軌道相互作用を導入した。したがってモデルハミルトニアンは(3d)^8の配置から生成される全電子状態を記述できる。また、モデルハミルトニアンを導入したシミュレーションは励起状態にもそのまま適用できるように開発されている。現在、励起状態のシミュレーションを用いて、光励起後の電子状態緩和のメカニズムを引き続き調べている。
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