2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J01369
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 啓介 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | フランス哲学 / 宗教哲学 / 社会思想 / 倫理 / 正議論 / 贈与論 |
Research Abstract |
平成15年度は、90年代におけるリクールの宗教思想と社会思想ならびに倫理思想の関係について、重点的に研究した。結果、下記1〜3の研究成果が得られた。 1.リクールが「メタ倫理的」と呼ぶある種の思考法(リクールはそれを贈与の経論と名付けている)が、彼によれば聖書的思考の独自性をなしており、その思考が通常の倫理思想を動かす動因となっていることが明らかにされた。ただし、それは倫理の基礎付けという意味での動因ではなく、人間が倫理へ向かうための「確実性なき確信」という意味でのそれである。そして、その思考法が聖書のどのような箇所に見うけられるのかが、明らかにされた。 2.その贈与の経論という思考法は、単に倫理の動因であるのみならず、正義という社会的制度にまで影響を及ぼすものであることが明らかにされた。具体的にいえば、赦しという「正義の臨界点」において、愛という形象をもって正義に介入するのが、贈与の経論である。また、リクールは部分的ながら、ロールズの正義論の中にも贈与の経論に類する思考法が存在することを指摘している。そのため、リクールの贈与の経綸論は、彼の宗教思想という範囲内には限定されないことも明らかにされた。 3.現代フランス思想という文脈の中でみた場合(特に、デリダとマリオンの贈与論)、リクールの贈与論の独自性が、(a)社会思想と密接な連続性をもつこと、(b)聖書に記述されている贈与の実定的事実性を前提とした議論であること、(c)贈与の経験の可能性の条件についての考察が欠けていること、以上3点にあることが明らかになった。
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Research Products
(4 results)
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[Publications] 佐藤 啓介: "リクールの宗教思想における贈与の経倫"宗教研究. 77-4. 193-194 (2004)
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[Publications] 佐藤啓介: "リクールの贈与論-倫理の源泉としての贈与の経倫"基督経学研究. 23(印刷中). (2004)
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[Publications] 佐藤 啓介: "単なるものの限界内における宗教哲学-現代芸術からのティリッヒ芸術論駁論"ティリッヒ研究. 8(印刷中). (2004)
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[Publications] 佐藤 啓介: "あとにのこされたものたち-考古学からの哲学への還路"往還する考古学. 2(印刷中). (2004)