Research Abstract |
研究の第三年度であり,最終年度でもある本年度は,前年度までの国内外における資料調査の成果と,すでに進めてきた個別の分析作業を踏まえて,中華民国期のイスラーム系少数民族-なかんずく,国民革命期〜日中戦争期の華北回民-の問題に関し,主に<日中関係との連関>という視角から,理論的観点や他の少数民族集団のケースとの比較をも意識しつつ,全体的・綜合的に検証・分析した.また,途中,外務省外交資料館,防衛庁戦史史料室,米国ハーヴァード大学燕京図書館,中国上海図書館などでの補足的な資料調査も行なった.研究内容・成果の梗概は以下のとおりである. 1)1920年代末〜30年代前半の中国回民の社会的・政治的動向に焦点を当て,<政治的活動空間の拡大>・<経済上の民族的ニッチの喪失><中国ナショナリズムの浸透><国際情勢認識の深化・普及><グローバルなイスラーム改革主義の影響>といった諸要因の絡み合いの中にあって,彼らが独自の包括的・機能的なアイデンティティを構築していくプロセスと,そこに<日本の侵略・工作>が及ぼした影響の重要性を明らかにした. 2)一方,昨年度に引き続いて,日中戦争期の華北・「蒙疆」占領支配地域で展開された日本の「回民工作/回教工作」の構造・経緯・影響を詳しく考察し,日本側の手になる組織化工作が,(i)回民側のエスニシティや民族・国家観,漢人-回民関係の地域的文脈などに少なからざるインパクトを与えながらも,(ii)結局は彼らを決定的に取り込めないまま破綻していった,複雑な「エスノ-ポリティクス」の作用を,西北諸省産の国際商品をめぐる経済的要因にも着目しながら,具体的に解明した. 3)同時に,日本側の「回民工作/回教工作」を打ち負かした「抗日」側の動きの詳細な検討も試みた.こちらは,重慶国民政府のケースと中国共産党のケースとに分けたうえで,(i)両者がいかなる論理のもとに,いかなる施策を実施したか,(ii)そうした論理と施策が,日中の「主戦場」たる華北の回民社会の動きに対してどのような効果を及ぼしたのか,<華北抗日(「辺区」)政権の回民政策>を糸口にして実証的にあとづけた 上記のうち,2の成果については,目下,数本の論文および学会報告の形式による公表を準備しており,1・3についても今後順次成果を公表する予定である.さらに,研究全体をとりまとめた総合的成果についても,近日中に何らかの形で整理・発表したい. なお,当初予定していた台湾(中国国民党党史委員会など)における資料調査は諸般の事情から実施できなかった.
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