2003 Fiscal Year Annual Research Report
社会性昆虫における自他の識別:アリの「同巣認識フェロモン」識別機構の解明
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02J02453
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
勝又 綾子 (和田 綾子) 京都工芸繊維大学, 繊維学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | Chemosensory Protein / 炭化水素 / アリ / 同巣識別 / 攻撃 / 化学感覚 / 電気生理 |
Research Abstract |
本研究課題における達成課題は1、「同巣認識フェロモン」として働く炭化水素の推測、2、炭化水素を受容する触覚上の化学感覚毛の探索と神経細胞の応答特性、3、化学感覚毛内の神経細胞が炭化水素を受容するメカニズムの推測の三つである。平成15年度に明らかになった知見を以下に記す。 1、クロオオアリの体表に存在するコロニー特異的な炭化水素のうちオレフィンをもつ炭化水素グループが「同巣識別行動」を引き起こし、メチル側鎖炭化水素およびアルカンは同巣識別行動に関与しないことが行動実験によって明らかとなった。2、クロオオアリの触角上に存在する厚みのあるコーン型の化学感覚毛(鐘状感覚子と命名した)の基部には約200からなる神経細胞が存在し、感覚毛内へ樹状突起を伸ばしていることが透過電顕写真により明らかになった。このことより、同巣識別に利用される化学感覚毛は多種多様な化学成分を受容する能力を持つことが予想され、ひいてはアリの体表に存在する多種類の炭化水素を受容する可能性が見出された。3、14年度にはアンテナの鐘状感覚子の分布している領域に特異的の発現しているChemosensory Protein (CSP)グループのタンパク質を発見し大腸菌による大量発現手法を確立した。15年度においては大腸菌で大量発現したCSP(CjapCSPと命名した)を用いて抗体を作成し、CjapCSPがアリの体の各部位でアンテナの鐘状感覚子が存在する部位にメジャーに発現していることを確認した。またCjapCSPを用いてアリの体表炭化水素との結合実験を行ったところ、100μMのCjapCSPの溶解した水溶液は比較対照に用いた100μM牛血清アルブミン(BSA)水溶液に比べて、約四倍ほどの体表炭化水素を溶解させることが明らかとなった。炭化水素などの疎水性の物質は化学感覚子内の神経細胞に到達する際、リンパ液(親水環境)中のキャリアタンパク質と結合してレセプターへ運ばれると一般的に考えられているが、今回の実験結果は、化学感覚毛内のリンパ液に含まれるCjapCSPが外界の炭化水素を鐘状感覚子内に存在する神経細胞へ輸送するキャリアタンパク質である可能性を示している。またCjapCSPによって水溶液中に溶解する炭化水素の組成比は溶解前の組成比とほとんど同じであったことから、CjapCSPの存在するリンパ液中では外界の炭化水素組成比が再現されると考えられる。クロオオアリの同巣識別には体表炭化水素の組成比が用いられることから、CjapCSPを介した炭化水素に対する化学受容周辺メカニズムが、クロオオアリの異巣個体に対する攻撃行動の発現に必要だと考えられる。
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Research Products
(5 results)
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[Publications] Mamiko Ozaki, Teruhiko Takahara, Yasuhiro Kawahara, A ako Wada-Katsumata, Keiji Seno, Taisaku Amakawa, Ryohei Yamaoka, Tadashi Nakamura: "Perception of noxious compounds by contact chemoreceptors of the blowfly, Phormia regina : putative role of an odorant-binding pProtein."Chemical Senses. 28(4). 349-359 (2003)
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[Publications] 尾崎まみこ, 和田綾子, 岩崎雅行, 横張文男, 尼川大作, 山岡亮平: "社会性昆虫のケミカルコミュニケーション:アリ超個体社会における自己・非自己認識機構"日本味と匂学会誌. 第10巻,第3号. 505-506 (2003)
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[Publications] 和田綾子, 藤川和世, 山岡亮平, 尾崎まみこ: "クロオオアリの触角に含まれるChemosensory Proteinの機能解析"日本味と匂学会誌. 第10巻,第3号. 675-676 (2003)
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[Publications] 山岡亮平, 和田綾子: "昆虫のにおい行動"アロマサイエンスシリーズ21(2)においと脳・行動. 228-238 (2003)
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[Publications] 和田綾子, 山岡亮平: "昆虫の行動とフェロモン"Aroma Research. vol.4, No.4. 324-330 (2003)