2003 Fiscal Year Annual Research Report
〈真正性〉と文化遺産のあり方:中国雲南省麗江納西族自治県「麗江旧市街」の事例から
Project/Area Number |
02J02508
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
本間 美歩 奈良女子大学, 大学院・人間文化研究科, 特別研究員DC1
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Keywords | 中華人民共和国雲南省 / 麗江旧市街 / 真正性(authenticity) / 世界遺産条約 / <生活密着型>文化遺産 / 歴史的環境 / 社会学 |
Research Abstract |
本研究は、<生活密着型>文化遺産という視点から文献/現地調査を行い、文化遺産のあり方とその可能性について考察することを目的としている。とくにユネスコの世界文化遺産に注目し、文化遺産保護の空間にかかわる主体ごとに、それぞれ使用される<真正性>概念の内容を分析し、世界遺産条約が登録条件として課す「オーセンティシティのテスト(authenticity)」による<真正性>が必ずしも共有されるものではなく、また必ずしも文化遺産の保護に有効ではないことの検証を試みる。世界遺産条約というグローバルな文化遺産保護制度を実行するためには「オーセンティシティのテスト」における文脈で文化遺産のあり方を規定するのではなく、より緩やかに<真正性>概念を適用する必要がある。その際、ヨーロッパ以外の地域における文化遺産のあり方や、従来の制度では保護されてこなかったタイプの文化遺産に目を向けた考察を行うことが、非情に重要な役割を果たすと考えられる。 今年度は昨年度に引き続き、中国雲南省玉龍納西族自治県(旧麗江納西族自治県大研鎮。2003年に名称変更)の世界文化遺産「麗江旧市街」にて調査を行い、納西族及び東巴文化について文献・資料にもとづいた研究を行った。予定されていた研究は1.中国における文化遺産概念の成立過程や納西族及び「麗江旧市街」の成立と変遷についてまとまった形で発表を行う。2.納西族や東巴文化がどのように認知されているか、各国の美術・博物館への参与観察及び聞き取り調査を行う。日、中、欧米の研究を比較検討し、それぞれの焦点の違いを考察する。また、それらが地域住民や観光客に与える影響を明らかにする。3.博土論文を視野に入れ<生活密着型>文化遺産を枠組みとして形にすることを試みることであった。このうち1については現在、投稿予定の論文を執筆中である。2については、各国の美術・博物館への参与観察を行う機会には恵まれなかったが、ジェームズ・ヒルトン『失われた地平線(Lost Horizon)』に端を発するシャングリ・ラ(shangri-La)伝説に関する言説の資料収集を行った。いずれ調査結果をまとめて発表する予定である。3については、奈良女子大学社会学研究会(2003年11月8日)において発表する機会を得たが、その構想についてはさまざまな指摘を受けた。今後はそれらを厳粛に受けとめ、より有用な枠組みとなるようさらに構想を練ることが求められる。
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