2004 Fiscal Year Annual Research Report
〈真正性〉と文化遺産のあり方:中国雲南省麗江納西族自治県「麗江旧市街」の事例から
Project/Area Number |
02J02508
|
Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
本間 美歩 奈良女子大学, 大学院・人間文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 文化遺産 / 世界遺産条約 / 真正性 / 中華人民共和国 / 麗江旧市街 / 生活密着型 / 歴史的環境 / 社会学 |
Research Abstract |
本研究は,文化遺産とその保護のあり方およびそれらの可能性について,これまでは取り上げられることの少なかった<生活密着型>文化遺産という観点から考察することを目的としている.とくにユネスコの世界遺産条約における文化遺産(以下,世界文化遺産)に焦点をあて,文化遺産にかかわる主体ごとに,それぞれが主張する文化遺産の価値について分析し,社会における文化遺産の位置づけを考察する.世界文化遺産においては,世界遺産条約が課す「オーセンティシティのテスト(test of authenticity)」による<真正性(authenticity)>が重要な登録条件となっており、保護プログラムにおいてもこの<真正性>が損なわれないことが求められるが,この<真正性>必ずしも共有されるものではなく,また必ずしも文化遺産の保護に有効ではないと考えられる.世界遺産条約というグローバルな文化遺産保護制度を実行するためには「オーセンティシティのテスト」における文脈で文化遺産のあり方を規程するのではなく,より緩やかに<真正性>概念を適用する必要がある.その際,ヨーロッパ以外の地域における文化遺産のあり方や,従来の制度では保護されてこなかったタイプの文化遺産に目を向けた考察を行うことが,非常に重要な役割を果たすと考えられる. 今年度は昨年度に引き続き,中国雲南省玉龍納西族自治県および麗江市(旧麗江納西族自治県.2003年に名称変更)の世界文化遺産「麗江旧市街(Old Town of Lijiang)」を中心とした調査を行った.予定されていた研究は1.納西族の文化,とくに東巴文字と呼ばれる納西族に伝わる独自の象形文字と「麗江旧市街」との関係について考察し,発表を行う.2.納西族や東巴文字がどのように認知されているか,各国研究者による調査資料や論文について総括する.3.ジェームズ・ヒルトン『失われた地平線(Lost Horizon)』に端を発するシャングリ・ラ(Shangri-la)伝説を利用した観光政策とそれをめぐる地域の関係について調査する,ことであった.1については雲南大学主催の第3回中日民俗文化国際学術シンポジウム(於雲南省怒江リス族自治州通宝大酒店)にて「広がりゆく東巴文字とその<真正性>--日本における使用例から」というタイトルで発表する機会を得た.このシンポジウムは民俗学者を主体とし,また参加者の半数以上が中国人研究者であったため,発表後の議論では通常の研究活動においてはなかなか得られない質問や指摘を受けることができ,非常に有意義であった.2については収集済みの資料に関する総括をほぼ完了し,引き続き残りの資料を収集中である.3については日本社会学会第77回大会(於熊本大学)にて「周辺地域とのかかわりから見た世界遺産--中国雲南省『麗江旧市街』を事例に」というタイトルで発表する機会を得た.今後はこれまでの研究実績を含めた形で博士論文を完成させる予定である.
|