Research Abstract |
本研究は,乾燥地灌漑農地の適切な管理法を確立する一助とするため,水資源の分布・利用方式の異なる三つの乾燥地域(メキシコ合衆国カリフォルニア半島南部,カザフスタン共和国シルダリア川流域,中華人民共和国陝西省洛恵渠灌区)を対象として,灌漑に伴う土壌中の塩類動態と塩類化・アルカリ化の機構を塩類の溶解平衡論,交換平衡論を理論的手法として解明した.これらの地域はいずれも寡雨地域にあるが,農業に利用可能な水資源は量的,質的側面で大きく異なっている.カリフォルニア半島南部では大きな河川がないため地下水を利用しているのに対し,シルダリア川流域と陝西省洛恵渠灌区は大量の河川水を取水して灌漑農業を営んでいる. 土壌や灌漑水の性質および栽培歴に由来し,各地域,各農地によって,塩類動態は明瞭な差異が認められた.砂質農地では塩類は洗脱傾向にあるが,土壌の陽イオン交換反応は,Na^+吸着/Ca^<2+>放出に進行しやすい環境下であった.ナトリウム塩(塩化ナトリウム,ナトリウム炭酸塩)を多量に含む灌漑水を利用すると,塩類の洗脱過程でナトリウム吸着率が急速に上昇し,ソーダ質土壌を生成しやすく,土壌pHの上昇が示唆された.このような農地に対しては,硫酸等の施与によって,直接pHを下げるとともに土壌のアルカリ化・塩類化を抑えつつ作物栽培を行い,作物へ養分を可給化させることが重要である. 粘質農地では,灌漑による塩類の洗脱はされにくく,土層内に塩類集積を引き起こしていた.土壌の陽イオン交換反応は,比較的,Ca^<2+>吸着/Na^+放出に進行しやすい環境であるが,土壌の塩類化とともに交換性ナトリウム率が増加することが明らかであった.そのことから,塩類化過程とともにソーダ質土壌が不可逆的に形成されることが示唆された,土壌改良には農地に暗渠を入れる等の方策をし,除塩効果を高め,可溶性ナトリウム塩の低下の検討が重要である.
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