2002 Fiscal Year Annual Research Report
多文化教育による「国民国家」公教育体制の克服への試論
Project/Area Number |
02J03345
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
児玉 奈々 早稲田大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 多文化教育 / 公教育原理 / 移民問題 / 反人種主義教育 / カナダ教育政策 |
Research Abstract |
カナダ国内で人口の多文化化が最も顕著なオンタリオ州の、特に、連邦政府が移民受け入れを積極化し、人口構成の劇的な変化が見え始めた1970年代以降から現時点までの公教育政策に関わる諸経験を事例として取り上げ、多文化社会における公教育の原理の様相を、連邦政府による移民政策、多文化主義政策の内容の変遷と関連づけて考察した。 オンタリオ州の公教育政策は、多様な文化を持つ人々によって構成される州の様相を積極的に認めた上でそれに付随する問題群に対応していた。特に、1967年連邦移民法改正による白人住民と処の色が異なるヴィジブル・マイノリティと称される移民の増加、それに伴う人種差別問題などが顕著化して以降、オンタリオ州政府は、公教育政策において、公用語教育や子どもの文化的多様性を尊重する教育、そして、他者との関係づくりなどの積極化に総合的に取り組んでいった。続く1990年代の反人種主義教育は、従来までの公教育に刷り込まれたヨーロッパ的思想基盤を批判し、その思想からなる構造自体を問題視した。この動きは州内の人種差別問題を受けたものであった。 しかし、反人種主義教育は、その急進性によって非効率的に運用されたため、膨大な赤字財政を抱え込んだ。現在のオンタリオ州政府は、移民の子どもに対する公用語教育予算の削減、子どもの文化的多様性には触れないなどの方針を採る。マイノリティ問題の切り捨てという批判も受ける進歩保守・現政権のこうした政策は、産業界からの要望や連邦政府が受け入れを積極化するカナダ経済に貢献しうる移民の支持によるものと言われ、現状では、多文化教育は社会経済・移民受入れ問題から直接的な影響を受けやすい状態にあると言える。 多文化社会における公教育原理は、移民政策とも大いに関連していることから、人口問題に関わる社会政策に特に注意を払った上で、公教育の方向性を見極めていく必要があるとの知見を得た。
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Research Products
(1 results)