Research Abstract |
今年度は,一人称的観点から見られた世界,すなわち「中心を持つ世界」を「情報」概念を使って構築する理論を,信念変化の理論として提出した.これは,可能的に誤情報を含み,従って潜在的に矛盾する情報の集合から,整合的な世界像にいかにして到達できるのか,という問題に答えることでもある.徹底的に一人称的観点から見られた世界は,しばしば懐疑論に陥ってしまう.これに対し近年の「自然化」された認識論では,客観的な「情報」概念を前提することで,懐疑論的帰結を阻止しようとしている.だが,その時「情報」はアプリオリに真なる情報のみが存在すると前提されており,そのような前提に基づく理論は,実際の環境の中に存在する主体にとっての情報の理論とはなり得ない.それに対し,私は誤情報を認めつつ,世界は情報の流れであり,主体に与えられているのは情報のみである,という前提から出発し,不確定な情報はそのままに,確証された情報は,それを「事実」と認め,そのような事実の集合によって「中心を持つ世界」を構築する,という情報評価のメカニズムを開発した.このシステムの特徴は,1)最初に与えられる情報集合に矛盾を許す,2)そのような情報集合から,一義的に,整合的な事実の集合を取り出す,3)たとえ最初の情報集合にPという情報があり,〜Pという情報はない場合でも,全体論的考察から〜Pを事実とする可能性を持つ,という点にある. さらにこれとは独立に,この中心を持つ世界を構成する事実を,主体が「知っていると信じている」内容として「BK信念」と呼べば,それによって「知識」を,「他の真なるBK信念に対し単調的なBK信念」として,「正当化」概念を使わず,一人称的な観点の外に立つこともなく定義できることがわかった.これにより,情報,事実,信念,知識,といった概念を,相対主義的かつ実在論的な観点から統的に理解することが可能となった.
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