2002 Fiscal Year Annual Research Report
所有、贈与、流動―レヴィナスにおける<善>と<正義>のエコノミー
Project/Area Number |
02J03624
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
三浦 直希 東京都立大学, 人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 所有 / 贈与 / 流動 / エコノミー |
Research Abstract |
エマニュエル・レヴィナスの思想における<善>と<正義>の二秩序の関係を、経済に関係する概念を手がかりとして研究した。まず、1950年代の一連の論考に見られる経済的正義の思想の生成過程に注目し、それが詩人・作家・外交官であったポール・クローデルの経済思想との出会いから大きな影響を被っていることを発見した。世界的規模へと拡大する交易をキリスト教的愛による諸民族の融和として捉えるクローデルを批判しつつ、レヴィナスは取引・交換という経済的活動、そしてそれを可能にする貨幣に正義の実質的な内実を認め、倫理の目標を「経済的平等」の実現として提示していく。またそこには、当時非常な高まりを見せていたマルクス主義への共感と留保を同時に見て取ることができる。そこで、レヴィナスのテキストに現れるマルクスやマルクス主義への言及を年代順に分析し、その両義的ではあるが首尾一貫した関心、とりわけソヴィエト連邦への関心の存在を明らかにした。人間の疎外を解消するはずの国家体制が逆に官僚主義と粛清のスターリン主義へ陥るのを目撃しつつ、レヴィナスは<善>の秩序、すなわち無償の贈与と一方的な責任の秩序へと傾倒していく。50年代の経済的正義の主張をいわば修正する形で、後期のレヴィナスは交換や取引とは全く異なる他者との関係、贈与を重視していったのである。この側面については、レオン・ブロワの思想とレヴィナスの関係を通じて詳しく研究した。一見異質な両者の思想が、実は「受難」としての「他者のため」の贈与、苦悩という受動的な贈与によって深く結びつき、ひとつの苦しみの倫理を形成していることを明らかにした。
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Research Products
(1 results)