2003 Fiscal Year Annual Research Report
ショウジョウバエ成熟神経系幹細胞の増殖・増殖停止・分化を制御する微少環境の解析
Project/Area Number |
02J03966
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 健太郎 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | ショウジョウバエ / 成体脳 / 増殖細胞 / 触覚神経索 / グリア細胞 / 神経細胞 / BrdU / グリオーシス |
Research Abstract |
本研究によって明らかになったショウジョウバエ成体脳におけるBrdU陽性細胞のサブタイプの有無の検討とその同定を試みた。ショウジョウバエ成体脳には多くのグリア細胞があるが分類はなされていない。そこで低頻度ながらも分裂期に体細胞組み換えを引き起こすことによって子孫細胞の一方を標識することのできるMARCM法とBrdU標識、抗REPO抗体による免疫抗体染色を組み合わせて形態観察を試みた。その結果、ニューロパイル中に多数の突起をのばしているグリア細胞、二つの突起をもち触角神経索を囲んでいるグリア細胞、突起を持たず触角神経索の周囲に分布するグリアが観察された。標識効率がひくく増殖能を持つ細胞とその子孫細胞を同定するには至らなかったが、同じREPO陽性・BrdU陽性として識別される細胞集団は均質ではなく、形態からみて3つに分類できることをみいだした。 グリア細胞の増殖を引き起こす要因を検討した。ショウジョウバエの腹随では羽化直後から神経細胞のプログラム細胞死が起きることが知られている。このような細胞死が細胞増殖と関わっている可能性を考えた。成体脳におけるプログラム細胞死の有無を検討したところ、触角神経索周辺に神経細胞のプログラム細胞死が観察された。そこでプログラム細胞死が抑制される変異体で解析したところ、BrdU陽性のグリア細胞は観察されなくなった。さらに触角を切除して触角神経索に軸索変性を誘導したところ、触角神経索周辺にBrdU陽性のグリア細胞が観察された。また針で脳に損傷を与えた場合でも、その近傍にBrdU陽性のグリア細胞が観察された。以上の結果から、ショウジョウバエの成虫脳では発生の一過程であるプログラム細胞死に依存してグリア細胞の増殖が引き起こされているが、実は同様のグリア細胞の増殖は壊死や神経変性も含めた脳の障害によっても引き起こされており、グリア細胞の増殖は脳の恒常性の一端を担っているのではないかと考察した。
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