2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J04331
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松村 寛之 大阪大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 日本近代史 / 思想史 / 十五年戦争 |
Research Abstract |
本年度に行った研究実績の概要については、以下の通りである。 本年度は、15年戦争期における国民意識の諸相を分析するために、ナショナリズムと個の意識との関係をめぐって考察を行った。その際、主として日露戦争後に析出された日本近代の自我意識が、大正から昭和初年代にかけて、自らの実存的意義をナショナリズムとどのように結びつけたかが重要な検討課題となった。それは、15年戦争下における知識人の抵抗のあり方、マルクス主義の転向から、青年将校らによる超国家主義などにいたる日本人の精神史について、包括的な視点を提供することを可能にした。とりわけ、自我意識とナショナリズムの関係についての分析は、日中戦争開戦の時期から文壇や論壇を席巻した、いわゆる「日本への回帰」とよばれる思想状況について、重要な論点を導き出すことができた。まず、保田與重郎らの日本浪曼派など、多くの「回帰」した知識人たちには、伝統への帰依と個我意識の喪失が一体のものとしてあらわれ、それが逆説的に、日本近代におけるナショナリズムの不在につながっていった。このような状況は、しかし、多くの日本人民衆にも共通のものであったと思われる。その一方で、青年将校の一部や萩原朔太郎など、個我意識を強靭に維持したままナショナリズムと取り組んだ人々が存在していた。彼らにおいては、ナショナリズムの論理が必然的な暴力の支配を意味するものではなく、むしろ近代的な市民意識の根源となりうることが示されようとしていた。後者のような試みは、戦時下において必ずしも成功したわけではなかったが、敗戦後の思想のなかでも再びその重要性が問い直されることになったのである。
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Research Products
(1 results)